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◆ラスト・サムライ、そして300

ラスト サムライ 特別版 〈2枚組〉




ちょっと前のことだけど
トム・クルーズ主演の映画『ラスト・サムライ』を観た。
ちょうどヘロドトスの『歴史』 の上巻を読んでいたときのことだ。

はじめは何気なく観ていたのだけれど、
渡辺謙演じる「勝元」が魅力的でついつい引き込まれてしまった。

勝元は西郷隆盛がモデルらしいけど
古き良き「侍」の時代を象徴しその最後の存在として登場する。
アメリカでの先住民族との戦いに心を病み、
新政府の軍隊指導教官として日本に流れて来た
アル中のオールグレン大尉は、
はじめてのサムライとの戦いに敗れ捕虜になるが、
敵である勝元の人間性に次第に引かれて自らも誇りと自信を取り戻してゆく。

そして、物語はクライマックスである官軍との最終決戦ということになるのだけど、
近代兵器で武装した二万人の官軍に五百人のサムライでは如何にも多勢に無勢。
玉砕も辞さない覚悟の勝元に対しオールグレンはこう言う。
「昔、テルモピュライの戦いで百万を超えるペルシア軍に
たった三百人のギリシア兵が立ち向かい二日間に渡って大打撃を与え、
ついには敵を退却させたのだ。(諦めるのはまだ早い)」と。

「うん?テルモピュライ?
ぺルシア戦争ならサラミスの海戦やマラトンの戦いは知っているけど、、、。」
と手元にある『歴史』の目次を開いてみると下巻にちゃんと書いてあるではないか、
「テルモピュライの戦い」と。
不見識にもぼくは、ペルシア戦争中でも白眉のこの戦いのことを全く知らなかったのだ。
まさかトム・クルーズに教わるとは、
と思いつつ下巻目指して逸る心を押えながら読み進めていった。

それは凄まじい戦いだった。
クセルクセス率いるペルシア軍は周辺を併呑して日に日にその勢力を増大させながら
(まるで今川義元だけど桁がちがう)ギリシアに陸海両面から押迫った。
ヘロドトスによればその数二百万を優に超えていた、とあるがこれには諸説ある。
でも大群であったことは間違いない。
駐屯した場所の食料は瞬く間になくなり川は干上がったそうだ。
あまりに兵隊の数が多いために謁見は高い崖から行うしかなかった。
ひとつの都市が移動しているようなものだ。
この圧倒的な軍勢を迎え撃つべくギリシア連合軍が編成され
テッサリア近郊の地峡テルモピュライに集結するのだけどその数僅かに五千人弱。
スパルタからは、
信望厚い指揮官レオニダスが
精鋭「三百人隊」を率いてこの戦いに参加していた。
人数は少ないとは言え地勢上の有利を活かして一歩も引かないギリシア軍に対し
ペルシア軍もアタナトイ(不死部隊)を用いて凄絶な戦いを繰り広げる。
ギリシア軍は善戦するも数の上の劣勢を覆すことはできずに
やがて戦意を喪失し
託宣の結果も思わしくないことから
連合軍は解体して撤退することになってしまう。
しかし、少しでもギリシア侵攻を遅らせるために
レオニダス以下三百人の兵士が残って戦うのだ。

映画の中で勝元は
善戦空しくいよいよ最期のときが迫ったときに
オールグレンに尋ねる。
「ところでその三百人はどうなった?」
「全滅です」
「そうか、それも悪くない」
この言葉はラストの勝元の言葉へと繋がって行く。

全く人間というやつは、と思いたくなるが
この戦いの結末は意外なところからやって来る。
土地のひとりの人間が恩賞目当てに抜け道となる間道をペルシア王に教えたのだ。
二千五百年も前の裏切りが今に伝わるというのは
口の中に砂が入ったみたいで何とも言い難いがこれも人間のなせる業だ。
彼らはペルシアの大群を三日間持ち堪えて斃れる。
この命を賭した戦いが遠因になってギリシア軍は奮い立ち
サラミスの海戦で勝利してペルシアの大軍を撃破することになる。

ヘロドトスの『歴史』には、当時のテルモピュライの地図も載っているし、
戦術上の要衝であったためかその後も度々戦争の舞台になっている。
でも、残念ながら放浪時代には何も知らずオリンポスの山を北に見ながら
テッサロニキ(ペルシア軍が南下の拠点にしたギリシア北東部の都市)からトルコへ
さっさと抜けてしまった。

が、今は便利な時代、
グーグル・アースのクリックひとつで
テルモピュライに行けるし
レオニダスの銅像を拝むこともできる。
でもやっぱり現地に行ってみたいなあ。

因みに、3月9日からアメリカで公開される映画『300』
レオニダスを主人公にしてテルモピュライの戦いを描いた
Frank Millerの劇画がベースになっている。
300という数字は
勿論先に掲げた「三百人隊」のことだ。

旅人よ、
スパルタびとに伝えてよ、
ここに彼らがおきてのままに、
果てしわれらの眠りてあると

(岩波文庫・ヘロドトス『歴史』下巻・松平千秋訳より抜粋)

コメント

『300』を観ました。
もう~ジェラルド・バトラー(レオニダス)はじめ、スパルタの
戦士達の腹筋が美しくて美しくて・・・感動してしまった。
(どこ見てるんだ!とか言わない)

色を抑えた映像、緩急をつけたスローモーションが残虐である
戦いを美しいとさえ思わせてしまう。
戦う動きがひとつひとつ絵画の様で、一瞬、静止する画面は
構図も肉体も美しくて息をのむ。
ストーリーがシンプルなだけに、映像に集中できておもしろかった。

世界史選択だった子供の「世界史図表」を見てみたら
テルモピュライの戦い、ちゃんと載ってた。
重装歩兵の装備やら、戦い方・隊列の組み方まで、結構大きな扱いで。
教科書にも出てたんだ。
『ラストサムライ』は映画館・DVD・TVと3回も観たのに
トム・クルーズが言う「全滅した三百人隊」が
このテルモピュライのスパルタ軍だと繋がらなかった。
私はICARUSさんに教えてもらった。

posted: pukupuku
June 24, 2008 11:48 AM

映画館で二度観ましたが
最後のテロップもカッコ良かったなあ。
あと、フランク・ミラーの原画が洒落てますよ。
因みに、英語では「テルモピュレー」とかいいます。
また、WEST POINT(アメリカ合衆国陸軍士官学校)では
自己犠牲による戦況逆転の戦史の典型として必ず教えるようです。
もうひとつおまけに、『スパルタンズ』というこの映画のパロディがあります。
超B級の予告編に爆笑しました。
以上、余談にて。

posted: ssm
June 25, 2008 08:08 AM

最近「300」を見て、ラストサムライに似ていると感じました。男の生き様を感じた映画でした。
このHPを見て、ラストサムライにちゃんと台詞で関連性があったことを知りました。
この映画を撮るきっかけが、ひょっとしてラストサムライだったってことはないですか?

posted: 山川海人
September 18, 2008 09:07 AM

山川さん、
コメントありがとうございます。
その辺の因果関係については分かりませんが
両方とも今から2500年近く前の「テルモピュライの戦い」に
大いに心動かされていることには変わりありません。
そして、当時の人々にとってこの戦いは
もっと強烈な衝撃であったことは
その後のペルシャ戦争の結果が物語っています。
「ラスト・サムライ」の脚本家は本を書き進めるうちに
モデルとなった人望篤い悲劇の主人公西郷隆盛(=勝元)に
レオニダスの姿を見たのかもしれませんね。

posted: ssm
September 19, 2008 09:07 AM




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