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◆TC-1

<p> もう十年近く前のことだけど、そのころぼくはカメラを探していた。<br /> 一眼レフではなく、いつも現場行きの鞄の中に忍ばせるようにコンパクトで<br /> できればズームができて広角で明るいレンズのついた<br/> そんな欲張りなカメラを探していたのだ。</p>
<p>当時有名だったのが元祖高級コンパクトカメラのCONTAX T2。<br /> チタン合金に包まれたスリムなボディにカール・ツァイスのレンズがカッコいい。<br /> でもズームがない、と思っていたらTVSが出た。<br /> 惹かれつつも、ちょっとレンズが暗いなァ、とか<br /> レンジファインダーでズーム大丈夫なのか、とか完全には納得できず<br /> TVSⅡ,Tix,G1と、カタログがぼろぼろになるほど飽きもせずに眺めていたのだが<br /> 何故か買うところまでは行かなかった。<br /> ある日、現場に行くのに<br /> 「きょうは天気もいいから歩いてみるか」と思い立ち<br /> 天王寺からプラプラと南に下っていった。<br /> すると、目の前になんか妙なカメラ屋さんが見えてくるではないか。<br /> 何が妙って、えらい古びた感じのお店なのに<br /> 木製のショーウィンドーの中に入っているカメラやレンズはどれもこれも本格的。<br /> ライカやハッセルブラッドまで並んでいるのだ。<br /> そのズレにすっかり魅了されたぼくは、吸い込まれるように店の中に入っていった。<br /> 店内は昔の京都の呉服屋さんにでも行ったような和風な空気。<br /> 飄々とした店主がのっそり出てきて、フィルムを買い求めると<br /> ぼくがA3の図面が入る大きな鞄を持ち歩いているのでわかったのか<br /> 向こうから、設計やってるのか?と尋ねてきた。<br /> 店主は建築のこともよく知っていて、聞けば村野藤吾にも関係のある人らしく<br /> いろいろと興味深い話をしてくれた。<br /> ひとしきり喋って別れ際に、カメラ選びのことを尋ねてみた。<br /> このときには、デジカメの一眼レフにしようかとさえ考えていたのだ。<br /> すると、あっさり「ミノルタのTC-1がいいよ」という返事が返ってきた。<br /> 知ってはいたけど、いまひとつピンと来ていなかったカメラだ。<br /> でも、その返事が気になって今度はよく行くスタジオの小野さんにも聞いてみた。<br /> これも「TC-1がいいよ」という返事。<br /> 結局、ぼくはそのカメラを買うことにした。<br /> 値段はまだそれほど下がっていず高かったが、十分すぎる価値があった。<br /> 建築的でさえある美しいフォルム、切れのよいロッコールレンズ。<br /> 隅々まで行き届いた完成度の高さにはただただ脱帽するよりない。<br /> 名機とは正にこのことだ。<br /> しかし時代は容赦なくデジカメの方向に流れて行く。<br /> CONTAXは既になく、ミノルタはコニカと合併してコニカミノルタとなり<br /> 更に昨日の新聞では、同社が銀鉛カメラから撤退することを報じていた。<br /> 寂しいかぎりだが<br /> ミノルタTC‐1の名がカメラ史から消えることはないだろう。<br /></p>

コメント

TC-1のこととなると、コメントせざるを得ない。
何故かと言うとモリタ氏の影響が大いにあって、購入することとなったからである。

ある夏の日だったか、会ったときに嬉々として、得意にTC-1のことを話してくれた。
なるほど、後にカタログで知ったことだが、ミノルタが、世界最小、最軽量を狙っただけのことはある。
「ボディーの黒い部分とシルバーの部分の割合も、絶対黄金比だね。」と話し合ったりした。
機械の操作性やスイッチの感触、さらに操作音まで、まさに精密機械、男の持ち物としては最高にかっこよくて、手の中にすっぽりと納まる小ささもよい。
もちろん、性能については言うまでもない。
後に、購入後私が行っているカメラ屋の店主夫人は、「使ってるのはいいカメラやね、本当に細かいところまで写っている、レンズがいい。」と、言ってくれた。
カメラはいいレンズを使っていることが大事なんだと知ったものだ。

2000年末から、月一度のペースで、個人的に写真を撮る機会が生まれて、同じ撮るならいいカメラをと考えていたときに、これを思い出したのである。

私はモリタ氏に聞いた。
「まねし、してもいか?」 「まねになってしまうけど、いいものはいいからね。」
モリタ氏は言った。「もちろん、ええよ。」

2001年初頭に、購入となった。それから2002年3月まで、京都などで、月2~3本ずつ撮り溜めた。結構得意になって使っていた。
いずれこのときのものからいくつか引き伸ばしたいと思っている。

いまやカメラと言えばデジカメで、フィルムカメラ自体が珍しくなった。旅先で電池交換に入った売店の人にまで「珍しいカメラですね。」といわれた。
1月13日付、朝日新聞でも、ニコンが、フィルムカメラから「撤退」を報じている。
プロ向けの「F6]、初心者向けの「FM10]以外の6機種の生産を順次終了、生産を続ける2機種も、新規開発をやめる。
カメラはデジタルがあたりまえの時代となったようだ。

フィルムカメラをアナログと譬えていいのかどうか分からないが、アナログの良さっていうのも忘れ去られないことを望む。

posted: Hiroshi Iwamoto
January 23, 2006 09:31 PM


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