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◆「谷町界隈」その後
<p>以前「谷町界隈」で旨いビフカツを出すお店のことを書いたけど<br /> その後日談をひとつ。<br /></p>
<p>「欧風料理○○」のお店のあった場所に暫く変化はなかった。<br />
恐らくその土地だけでは小さく不動産価値は少ないので<br />
隣地に吸収して大きな区画にする手続きが行われていたのだろう。<br />
ぼくはその横を通る度に、あのビフカツの味と<br />
店主と奥さんの絶妙の空気を思い出し懐かしんだ。<br />
<br />
時間が経って、谷町の路上で一度だけあの奥さんと出会うことがあった。<br />
そのときはお店も何もされている様子はなく<br />
ぼくは、また近くであの味を是非再開してほしいと頼んだけど<br />
そんな計画はなさそうだった。</p>
<p>だいぶ時間がたって、ようやくその土地が動き出した。<br />
建物が潰され、予想通り隣地と合わさり広めの更地になっていた。<br />
やがてオフィスビルの建設が始まった。<br />
それと共にあの店のこともぼくの頭の中から消えていった。<br />
<br />
ある日、京都の下鴨で完成させたリフォーム住宅の写真撮影を<br />
カメラマンO氏に依頼して同行した。<br />
いつもは向こうもプロだから任せてしまうのだけれど<br />
そのときはアシスタントも助っ人も都合が悪く<br />
ぼくが代わりに行くことにしたのだ。</p>
<p>京都に向かう電車の中で<br />
ぼくたちは自分の家のことや仕事のこと<br />
バブル崩壊後の「失われた10年」のことなどあれこれ話をしていた。<br />
そんなとき、藪から棒にO氏がぼくに尋ねた。<br />
「私のスタジオが入っているビルが一度売りに出たことがあるんですが<br />
いくらだったと思います?」<br />
「さあ、10階建てぐらいありますよね。それに新しいし、、、<br />
ちょっと分かりませんが8億ぐらいですか?」<br />
「いいえ、1億2千万だったんですよ」<br />
「えっ!それは安い。ちょっとない金額ですよね」<br />
「安いでしょ、一瞬買おうかと思ったくらいですよ」<br />
「それを買った人が○○さんという人で」と話は続いたが<br />
その名前には聞き覚えがあった。<br />
「欧風料理○○」の彼だったのだ。<br />
<br />
O氏によれば、その人は土地を手放すことで得たお金を他で使わず<br />
地価や建物の価格が十分に安くなるのを待って、いい建物を買っていった。<br />
そして、今は数件のビルオーナーになって芦屋に住んでいるとのこと。<br />
<br />
いやぁ参りました。<br />
あのビフカツにかかる絶妙のデミグラスソースを<br />
彷彿させる見事なキレ味だ。<br />
才能は料理だけじゃなかったんだなあ。<br />
しかし残念。<br />
あのビフカツはもう食べられないだろう。<br />
おそらく彼は<br />
気が向いたときに厨房に立って<br />
不機嫌そうに口をへの字に曲げて<br />
ビフカツを作るのだろう<br />
恋女房のために<br />
<br /></p>