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◆改正建築基準法の問題点

構造計算書偽装事件を受けて特に確認申請を中心とする審査内容を
大きく改正した建築基準法が2007年6月20日に施行されました。
以来、建設業界だけでは済まない不合理と停滞の嵐が吹き荒れていることを
皆さんはご存知ですか?問題は深刻です。

確かに、これまでの確認申請に関しては
申請及び審査業務が適切に行われていなかった事実があります。
このような不備を質して確認申請の質を高め審査を厳格にし
偽装や違反を防ごうというのが今回の改正の主旨であり、
その恩恵を蒙るのは建て主(施主・事業主)であるはずでした。
ところが、この改正によって生じたことは
建設業界だけではなく建て主をも含む大パニックなのです。

何が問題なのか順番に見て行きましょう。

最初の問題点は、
確認申請書類を変更の可能性を許さない厳格なものとして
完成図に等しい完成度を求めたことに起因しています。
図面内容に対し完成度や厳格性を求めることは何ら問題ありません。
しかし、建築が企画設計の段階からひとつの建物として完成を見るまでには
時系列的に検討と決定を行わなければならない項目が数多くあるのです。
つまり、確認申請段階では決定できないものがあるということです。

この「時系列的決定」というのが大変重要なのですが、
残念なことに、今回の改正はこの部分を完全に見落としています。

「時系列的決定」とは、決して杜撰とかルーズということではありません。
例えば、自分の子供のことをいくら良く知っていても
20年後の姿形まで想定して服を買うことができないのと同じことです。
窓ひとつをとっても、眺望やプラバシー或いは物の配置や光の加減を理由に
工事の適切な段階で変更することは当然あり得ることです。

施主と打ち合わせをして計画を練り重ねて完成度の高い図面を作成し、
見積を取り価格と業者を決めて工事契約を結び、
現場に入れば、今度は図面を基に施工図を作成し
検討を加えて更に完成度を高めて工事を進める、
そうして段階的に煮詰めミスを減らして完成度を高めて行く、
それが建築なのです。

変更のないことと完成度を同一視することは建築の場合ナンセンスです。

今回の改正は、この建築業務の実際的な流れを無視したものなので
建築の現場は大混乱に陥っているのです。
現在のこのような混乱を収拾すべく国交省は、
「変更を見越した検討があれば問題視しない」という見解を出しましたが
それで事態が終息するとは思えません。

次に、確認申請に係る業務と時間が大幅に増えたことがあります。
添付書類や書き込みが増えたという側面もありますが、
目的は意匠図・構造図・設備図の整合性の不備を質すことが中心にありますので
設計期間を広げるなりして正確性を期する必要があります。
これは今回の改正を受けて設計者側が反省改善しなければならない点です。
但し、整合性を求める必要十分な添付書類と書き込みであるべきです。

三つ目は、いざ確認申請を出しても今度は降りるまでに更なる時間と費用を要し
その間を無為に待つしかない状態になったということです。
この部分の経済的損失が非常に大きいのです。
例えば、家を建てるときに建て主は完成までの間仮住まいで待機するのが
一般的ですが、確認申請期間が延びる分仮住まいの期間も延びるので
当然出費も嵩むことになります。
土地を借り受けて事業する場合も同様です。

このように建て主の建築以前の負担が増える状態のなかで、
これら申請業務にかかる時間が増えた分を設計料に上乗せして
請求できる設計事務所は一体どれだけあるでしょうか。
それに、
これらの増えた時間と費用は総て審査チェックの為のものであり
建築の生産行為の質的向上に何ら寄与していない点も問題です。

2007年9月期の住宅生産受注率は、前年同月比で44%のダウンで
11月は少し改善して27%ダウン、というデータがある雑誌に載っていましたが、
現場の混乱も徐々に終息し今年の中頃には終息するというのが国の見解です。
一方、民間の調査ではこの影響は2~3年続くというところもあります。
適切な対応を取らないと建築業界が完全に失速してしまいます。
特に、アトリエ系の設計事務所や構造事務所は持ち堪えられなくて
既に失速しはじめています。

それを淘汰だという見方もできますが果たしてそうでしょうか。
この法律を是として受け止めた場合、規格化された品物としての建物、
例えばハウスメーカーの規格化住宅など対応しやすい側面もありますが、
それは結果的に建築の創造的行為を萎縮させ
この業界全体を限定的で魅力のないものにしてしまうだけです。

大変残念なことに、この事態と時を同じくして
燃料費が高騰し建設費用を二重に圧迫する深刻な状態になりつつあります。
国は、官僚や国の無謬性に拘泥するのではなく、
非のあるところは速やかにそれを認めて改善すべきです。
一刻も早い国の見直しを期待します。

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