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◆収納の美学 その2

なぜ「俄に片付けたとしてもその人と物との関係は案外はっきり分かる」のか?
という質問をいただきました。人と物との関係を考えることは、
収納や片付けを楽しく行うためにとても大切なことです。
一緒に考えてみましょう。

例えばこうです。
貴方は、普段ダイニングテーブルの上に調味料セットを置いているとして
来客があるからということで食器棚かどこかに「片付けた」としましょう。
すると、どうですか?
確かにダイニングテーブルは広々として気持ち良くなりました。
しかし、食器棚の中はどうでしょうか?
俄か仕立ての置き場所に、他の食器がちょっとずれていたりして
窮屈そうじゃありませんか?
目の届かないところに仕舞ったとしても
急に必要になって取り出すときの動作がスムーズでなかったり
テーブルの上にあった跡が残っていたりとかして
その物の気配が何となく感じられませんか。
お話をしていたらお客さんが小用でトイレに立ちました。
ダイニング廻りは片付けましたがトイレのことまで気が回りませんでした。
大丈夫、トイレはいつも綺麗にしているから心配ありません。
でも、そこにはちょっとした小物やお気に入りのタオルなどがあって
普段の貴方の「物との関係」が現れています。
普段と俄かの差は明らかです。
このように人と物との関係を示す気配は家のあちこちにあって
それがその家全体の雰囲気を構成していますから
簡単に消したり隠したりできるものではないのです。

別に人の家のあら捜しをしているのではありませんよ。
このように、普段の人と物との関係をしっかりと見ておかないと
その人その家族のためのすまいの設計がきちんとできないのです。

いまぼくは人と物との関係を示すことばとして「物の気配」と言いました。
物の「気配」とは何でしょう。
以前、ブログのコメント欄で黒澤明の映画『赤ひげ』の薬箪笥の話を書きました。
開けるシーンはないのに引き出しには薬を入れていたというエピソードです。
これこそまさに物の「気配」です。

それは、人と物との関係において成立する「居心地のいい場所や距離感」です。
この居心地のいい場所や距離感というのは人によって微妙に違いますが
長い年月のなかで習慣化されていて殆ど無意識のうちに規定してしまいます。
癖とはそういうものですね。それはその人らしさを示す要素でもあります。
そして、「片付け方」を変えるということは
その「居心地のいい場所や距離感」を変えるということですから、
これはそう簡単ではないということが分かります。

別の角度から、人と物との関係を見てみましょう。
巣からゴミを出す蟻や鳥など綺麗好きの動物は見たことありますが
片付けをしたり掃除をする野生の動物は聞いたことがありません。
なぜ、人間だけが片付けや掃除をするのでしょうか?

原始時代は道具も少なく食べ物も足りないことが一般的ですから
集めたり貯めたりすることの方が片付けることよりも重要だったと思います。
その意味では、「片付けられない」や「捨てられない」は
物がない時代から引き継ぐ本能的なメカニズムであり
糖尿や肥満のように現代的な病といえるかもしれませんね。
それが、狩猟から農耕へ移行する中で定住生活を営むようになってから
人は限られたスペースでの物の管理が必要になったのではないでしょうか。
物の管理を分解すると、保管と廃棄ということになります。
保管するには適切なスペースの確保と配置が必要です。
また、貝塚や三内丸山遺跡のゴミ置場など見ても分かるように
古代の人も現代人同様に廃棄処理に頭を痛めたのがよく分かります。
集落を維持するには物の管理(保管と廃棄)が不可欠だったということです。
人と物との関係は結構根が深いということが見えてきました。

さて、生物学で「動的平衡」という言葉があります。
人体を形成している物質は摂取と排泄によって
大体6年程度で総入替えするようですが、
人格は勿論その身体的特徴が極端に変わることはありません。
物の管理もある意味この「動的平衡」が理想ですがそうは行きません。
どうしても物が増える傾向にあります。何故でしょうか?
次回はこのあたりを考えてみたいと思います。

コメント

ありがとうございます。
う~ん、かなり深い内容ですね。流石です。
何て言うか、自分では見えない後姿を見せられたようで
ちょっとドキっとしました。

でも確かに仰るとおりのことがあります。
「物の気配」って案外分かってしまうものなんですね。
「その家全体の雰囲気」って自分の家のことは分かりませんが
よその家に伺うと感じますね。
言葉で表すのは難しいですけど、無意識のうちに感じ取ってしまう
「何か」があります。
それは単に趣味や好みだと思っていたのですが
もうひとつ、「物との距離感」と聞くと腑に落ちます。
これ、意外と大きいかもですね。


人と物との「居心地のいい場所や距離感」が人によって
微妙に違うというのは分かりますが、家族の中で
その違いがストレスになってしうことも有り得るわけで
そんな時はちょっと困ってしまいますね。
うまく折り合いをつけるしかないですけど。
(隔離計画実行中)

「片付けられない、捨てられない」が
太古から受け継がれた本能的なメカニズムが働いていたとは
目からウロコでした。
片付けるうえで、目の前の「使い勝手」も大事ですが
もっと根本的な理論を理解したら、さらに上手く出来そうですね。
子育ても終わり、また夫婦二人の生活に戻るのも近くなった今、
最後の時を考えつつ思い切った片付けに手をつけ始めました。
次回の内容も楽しみにしています。

posted: pukupuku
May 5, 2012 08:18 PM

捨てられない本能があるからこそ、捨てた時すっきりするのかもしれませんね。

posted: 人脈★吉田けい
July 28, 2012 03:56 AM




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