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◆収納の美学 その3

前回は人と物との関係を気配と管理の面から見てみました。
今回は、管理の動的平衡が保てない原因について考えます。
なぜ知らない間に身の周りに物が増えてしまうのでしょうか?

貴方が物の管理ができないからでしょうか?
捨てられないから? 片付けられないから?
もちろん、そのことも理由のひとつかもしれませんがそれだけではありません。
もう少し大きな原因があります。
それは社会の構造です。
現代は消費することによって成り立つ市場主義経済の真っ只中です。
どのようにして物を売るか、購買欲を刺激するか、所有欲を高めるか
などと皆躍起になっていますからこれは大変です。
それも、次から次へと改良や新製品を開発して
より良い物、より工夫されたもの、より高級なものなど商品価値を高めて
所有欲を刺激し続けられるのですからたまったものではありません。

世界で最初の百貨店がパリでオープンした初日に
早速最初の万引き事件があったという話があります。
人の、物に対する所有欲を象徴する出来事として記憶に残っています。

原始的な生活においては、
恐らく最初は自分が生き残るために物を独占したでしょう。
やがて独占するより共有した方が生存率が高いことに気がついたのでしょう。
それが、役割の分担や能力の差異から階級化が進み
貨幣の誕生と共に富や所有の意識が急速に高まっていったのではないでしょうか。
最近の研究では、貨幣が人類の文明を飛躍的に進歩させたという見解があります。
ぼくは、単に物々交換の代用(=擬制)として発生した貨幣が
その対象を物から時間や労力、或いは土地や権力などと
拡大していった結果だと思っていました。
しかし、真相はそうではないようです。
現代の貨幣の存在感は、貨幣が誕生したときからあったようですね。
それは、確実に人間の所有欲や独占欲に直結していたと推察します。
いずれにせよ、ぼくたちの社会は所有欲や購買欲を刺激する経済によって
牽引されていることは間違いありません。
物が溢れて当然ということでしょうか。

では、どのようにすれば物を増やさないようにできるのでしょうか。
物を増やさないためには物の管理が必要です。
ここで重要なポイントがあります。
「足るを知る」がそれです。
これを知らなければ物の管理ができませんし
できたとしても禁欲的な管理になってしまいます。
楽しくないですよね、そんなの。

実は、物が多いから「片付けられない」「片付かない」のではないのです。
物が多くてもそれなりに片付けることは出来ます。
でも、物が増えれば限られた収納スペースからはみ出してきますよね。
これを解消するためには、溢れた物を「捨てる」か「整理する」かの
仕分けの作業がどうしても必要になります。
そして、一念発起。
バッサリ物を捨ててスッキリ爽快。ああ快感。
そして、気がつけばいつの間にかまた物が増えて、、、、
となってドッと疲れてしまいます。
この連鎖を止めバランスするのが「足るを知る」なのです。

「保管」は「入ってくるもの」、「廃棄」は「出てゆくもの」。
そして、「足るを知る」はその中間に位置して出入りを平衡する感覚です。
これは、多過ぎず少な過ぎず無理なく無駄ない物質的平衡状態です。
これがないと、必要以上に物が増えたり、
大切なものまで捨ててしまったりしてしまいます。

「足るを知る」とは満腹中枢みたいな感覚です。
所有欲や購買欲を我慢したり抑えたりするのではなく
それなりに満たされている、足りているという感覚です。
物質欲を持つな、禁欲せよということではありません。
本当に欲しいものを手にするということです。

扨、貴方の欲しいものは何ですか?

コメント

はい、今とっても欲しい物は脚立とサイクロン掃除機です。
ってことは置いといて・・・・
あ、来年の結婚記念日に買ってもらうってのもいいかも。

う~ん、今回もまた参りました!
確かに周りは所有欲や購買欲を刺激することばかり。
目から耳からその情報が否応なく入ってきます。
そして生活の基盤そのものがそのシステムのおかげで成り立っているのも
また事実です。

年を重ねて本当に必要なもの、値段に関係なく
自分が気に入って納得できるものを探すようになりました。
(関西人なのでやっぱり安い方がいいな)
もう、たくさんはいらない。
ほんの少しでいい。
でも年月が経つとそれも少しづつ増えてくる。
「足るを知る」という言葉は知りませんでしたが
普段は意識せずにそのセンサーみたいな感覚を
自然に使ってますよね。
これからは意識して考えてみます。

仕分け作業は毎日行うもの、月によって行うもの
季節のものとルーティン化されていて長年その繰り返しです。
そこに私は「片付けたい病」がプラスされてくるわけです。
ちょっとしたヒントを見つけた時とかですね。
これが結構楽しくて・・・・
今回は深くて大きなヒントでした。
ありがとうございます。

posted: pukupuku
May 24, 2012 11:31 PM




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