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◆建設会社の設計施工と建築家

建設会社は何故設計施工で請け負うのでしょうか。
建築家の設計とはどう違うのでしょうか。考えてみましょう。

日本では設計施工(デザインビルド)という言葉やスタイルは普通ですが、
プロフェションとして建築家を認識していたヨーロッパでは
設計と施工は別のもの、というのが寧ろ一般的でした。
最近では、イギリスやアメリカなどでも設計施工で請け負う日本型ゼネコンが
登場してきているようですが、フランスなどのように、
極限られた範囲以外の建物は建築家しか設計できないというのが
やはりスタンダードのようです。

では何故、日本において設計施工が一般的であったかいうと
この国固有の優れた建築技術によるところが大きいと思います。
それは、今から400年以上も前に完成していた木造の
高度に発達したモデュールとプレファブリケーションのシステムです。

今でも木造の在来工法なら、大工さんはこのシステムを普通に使って
図面がなくても(板書きがその代わりをしますが)苦もなく建物を造ります。
こんなことは他の国では殆ど考えられません。

そして、このシステムで構築される日本の建築空間は
そのデザイン性に於いても
19世紀末のヨーロッパに強烈なインパクトを与えたのです。

何故かというと、ヨーロッパの建築は
ノルウェーやスイスの一部の木造建築を除いて組積造が主流でしたから
その重量を支えるためにどうしても壁は厚く窓は小さくなってしまう、
これを何とか克服して軽やかな壁と広く大きい窓を手に入れたい、
これが強い願望でした。
ノートルダム寺院の有名なフライング・バットレスも
この願望から生まれた力学的アイディアです。

近代になって、鉄とコンクリートという素材がクローズアップされ
重い壁と小さい窓から開放されようとするとき
それを既に紙と木で具現している国が東洋の端っこにあったのです。
それが日本なのです。

話は横道に逸れましたが、この高度なシステムがあったから
建築家という独立した職能が生まれる土壌がなかったのかもしれません。
「作事方」とか「普請方」とかいう言葉はありましたが
(作事は大工による建造を、普請は石組みや縄張りなどの造成を表わします)
内容的には設計と施工が分離したものではありませんでした。

近代になって、漸く「建築家」という言葉が日本で生まれてからも
法的に設計と施工が別れることはありませんでした。
昭和25年に建築士法が施行されましたが
設計と施工を分離するものではなく設計施工を是認する、
エンジニア的な存在として建築士を位置付けました。
その後、職能としての建築家の法制化が何度か模索されましたが成立せず
現在のように建設会社であっても工務店であってもハウスメーカーであっても
管理建築士が在籍すれば設計業務ができる状態が定着しました。
これが現在に続く「設計施工」の法的背景です。

設計施工のメリットはコストコントロールなどが図りやすいことです。
また、設計の意志と施工の意志が統一できることも大きいでしょう。
デメリットは、ハウスメーカーのところでも触れましたように
透明性と公平性を欠くというところです。
設計と施工の間で融通が効いてしまう反面、相互の独立性が弱いのです。
これが設計施工の内容を不透明なものにしてしまうのです。

また、設計料について考えますと設計施工の場合は、
設計業務にかかる費用は工事全体の中で自由に案分できますので
具体的な明細が提示されることは少なく、時にサービスとして扱うなどして
設計事務所や建築家が計上するような工事費の10%などという額に比べたら
全く比較にならないような安い金額として計上されます。

これが
「建築家に依頼すると設計料が高くつく」
というイメージに繋がっているように思います。
もうひとつ、
「建築家に依頼すると建物が高くつく」
というイメージもありますが、
設計施工によるコストコントロールと設計と施工が独立している場合のそれでは、
建築に投入される質が全く違うのです。

次回は、コストバランスの面から住まいを考えます。

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