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◆収納の美学

時間が経つほどに増えてゆくのが物
だから、収納部分はできるだけ沢山あった方がよい。
本当にそうでしょうか?

たしかに、放っておいたら物はどんどん増えて行きます。
折角綺麗に掃除した家でも、そのうち物が部屋の中まで占領し始めます。
収納スペースが足りないからそうなってしまうのでしょうか。

よく観察すると、大抵は収納スペースの問題というより
物との付き合い方の問題である場合が多いように思います。

ぼくの場合、住宅の設計依頼があるときは設計の準備段階として
新しい家にお住まいになるご家族の方全員にインタビューをするために
必ず現在お住まいの場所を訪問させていただくことにしています。
合わせて家の中を普段使いの状態にしておいていただだくこともお願いします。
そして訪問時に、その家と物との関わり方をそれとなく観察します。
俄かに片付けられたとしても物との関係は案外はっきり分かるものです。
これが収納を含む設計上の提案に大いに役立つのです。

物との関わり方には、その人の癖のようなものがあります。
それは自然に身につくというよりは家庭や教育によるところが多いようです。

ですから、上手に片付け上手に収納する癖を身につける努力が必要です。
そのためには、まず物との付き合い方を見直す必要があります。

例えば、押入れやクローゼットの中を覗いてみてください。
必要な物が出し入れできない状態になっていませんか。
何年も入れっ放しになっている物はありませんか。

例えば、机や家具の上を見てください。
物で溢れていませんか。
ダイニングテーブルの上は、下足入れや飾り棚の上はどうですか。
部屋や階段の空いているところに物を置いていませんか。

では、上手に片付けるにはどうしたらいいでしょうか。
まず簡単なルールを作ることです。
例えばこんな感じ。

一. 机やテーブルには、必要なとき以外は物を置かない。
これだけで、ダイニングなんかは相当広く感じるようなります。
必要な物を出し入れするスペースが必要になりますから
食器棚の中も整理されて綺麗になります。相乗効果です。

一. 置物や飾りは、一点か二点に決める。
そうすると、その物の存在感が引き立ちますし掃除もしやすくなります。
序でに、余分になった物は捨てるか収納するかの判断をしましょう。

一. 階段や部屋の隅など空いているところに物を置くのは止める。
空いているところは「空いている」ことに価値があるのです。
絵画における「余白の大切さ」みたいなものです。
それを埋めてしまうとその良さが失われてしまいます。

次は収納。
収納といっても、とりあえず詰め込めばいいというものではありません。
収納する対象物を観察すると、個々に性格や特徴があるのが見えてきます。
それを分類します、こんな感じで。
まず大きさ、大きな物、小さな物。次に重さ、軽い物、重い物。
そして時間、季節物、思い出物。ストックもの、予備品、備蓄品などなど。

収納は機能が大切、出し入れがスムースにできないと意味がありません。
これらを、ゾーンを決めて配置収納してやるのです。
大きなものや重いものは下。
小さなものや軽いものは上。
季節もの、予備品、備蓄品は前の方に。
思い出物は奥の方に仕舞っておけばよいでしょう。

何年も使っていないものは、今後も要らない可能性が高いですから
このあたりであっさり決断しましょう。

最後になりますが「捨てる」ということ。これが一番難しい。
物というのは不思議なもので、一度手に取ると自分の一部のような感覚になり
なかなか捨てられないものです。
ですから、かなり意識的に物との関わり方をコントロールしなければ
物は整理できません。

聞いた話ですが、今アメリカ大統領予備選挙で話題のヒラリー上院議員は、
月曜日に受け取った手紙で木曜日までそのままになっているものは
文句なしに捨ててしまうそうです。
仮に重要な文書がその中にあったとしても、そうであれば必ずまた連絡してくるはず、
というのが彼女の考えだそうです。何故か?
それぐらいしないと直ぐに文書で机が一杯になってしまうのです。

物と接するにはそれくらいの厳しさが必要なのです。

ここに「しつらい」という言葉があります。美しいことばです。

元々日本の住まい方というは、「見立て」の中に存在していました。
あるときは家族団欒の場、あるときは仕事場、またあるときは客室みたいに、
しつらい(室礼)することによってその「場」を成立させた文化なのです。
西洋のように、その場を固定する文化ではありません。

スペースを求める前に、
今一度押入れやクローゼットを確かめてみてください。
できることがあるはずです。

コメント

参りました。
おっしゃるとおりです。
ここ数日、一年に二・三回訪れる「家中を片づけたい病」で
押入れやらクローゼットの中を片っぱしから整理しています。 
何といらない物が沢山あるのでしょう。
収納がたくさん有るからこそ要らない物が
溜まってしまうのですね。
家族がそれぞれ、仕舞い込んで溜め込んでしまう「物」は毎回同じ。
それって癖だったんだ。
心地よく暮らす為には「捨てる」って大切な事なのですね。
勉強になりました。

最近、よく思う事は年のせいかもしれませんが
少しづつ何年もかけて整理して、本当に必要な物だけ残し、
子供達に迷惑をかけない最後でありたいという事です。

posted: pukupuku
May 2, 2008 03:12 PM

pukupukuさん
「片付けられない病」が多い昨今
「家中を片付けたい病」は大切貴重な病です。
大いにそのウィルスを撒き散らしてください。
因みに、「片付けられない病」の方の不幸は三つあります。
「片付ける」ことの知的喜びと「片付いた」あとの爽快感と
「散らかす」ことの開放感の総てを味わえないことです。

posted: ssm
May 3, 2008 05:24 PM

ICARUSさん
たしかに有ります!「爽快感」が。
3Dのパズルを仕上げた様な感じ・・・の。

posted: pukupuku
May 6, 2008 11:36 AM

久しぶりに読んでみたら、ちょっとここのところ悩んでいた
ある部分の収納について非常に参考になりました。

ところで、書かれていた
お仕事での訪問時『俄かに片付けられたとしても物との関係は
案外はっきり分かるものです。』とは
どういうことでしょうか?

posted: pukupuku
April 22, 2012 01:44 PM

いいお題を頂戴しました。
人と物との深い関係に関わる話なので
「収納の美学」の別の稿として取り上げます。
お楽しみに。

posted: susumu
April 28, 2012 03:33 PM




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