« 収納の美学 < mainpage > 対角線の妙 »



◆住まいの回遊性

例えば、マンションのリフォームなどでもこの動線が確保できるか
できないかでは随分と広がりが違ってきます。

設計するとき、この回遊性についてはかなり意識します。
何も各室全体が完全に回遊できる必要はありません。
主要な部分で成立していれば効果は十分です。

例えば、日本の伝統的な空間の場合、部屋を仕切るときは
西洋的な「壁」というより襖や障子などの「建具」で区画されることが多く、
光を透過させたり遮断したりできるし当然開けたり閉めたりもできます。
また、取り外して全開放さえできるので
回遊性も自由にコントロールできるようになっています。

その分、構造的強度とプライバシーの面で若干弱いところもあるのですが、
そこは「見立て」の文化
祭事があるときには襖をはずして続き間で宴会に使ったり
或いは、庭に向かって建具を全開放して風景を内部に引き寄せたり
実に様々な演出が可能です。

このような空間意識は、西洋化に伴う個室の普及によって
時代と共に徐々に薄れてきたのですが
回遊性への意識は現代の住宅にも少なからず受け継がれています。

今、ぼくは建具と言いましたが、
建具も大きく分けて「扉」と「引き戸」があります。
扉は開閉のみに特化した建具でそれ以上の融通はありませんが、
引き戸はスライドする壁と見立てることもできる極めて日本的な存在です。

現在では、外国でも障子も含め引き戸が結構用いられるのは、
その人間工学的な意味でのユニバーサルな側面だけではなく
こういった空間の可変性に対応する柔軟さにもあるのです。

では、その回遊性の有益なところとは何でしょうか?

ひとつは、空間が物理的に連続することによって得られる広がりと一体感です。
広がりを感じることによってゆったりとした雰囲気が手に入りますし、
また、一体感は家族の共有感や連帯感につながります。
そして、それは同時に風の通り道にもなり空気に動きを与えてくれます。

それだけではありません。動線が多様になることも大変重要です。
それはそのまま行動や視角にバリエーションを与えて
日々の生活を豊かにしてくれるのです。

つまり、回遊性にはストレスを回避する効果があるのです。
設計の要点のひとつとする所以です。

コメント




保存しますか?



copyright(c) 2005-2011 susumulab all right reserved.