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20 08 12

横着な蜘蛛

裏庭に出る手前に木塀で囲った三坪ほどの小さな庭があって
そこには前世は建築家だったかもしれない几帳面な蜘蛛がいて
夕方にもなると誠に寸法よろしく見事な網を完成させるのですが
この日はどうも勝手がちがう様子

この種類の蜘蛛は職人気質で
糸の張り方 寸法の取り方 手順の総てが機織職人のようで見ていて美しい
しかも 翌日にはその美しい網を撤収して痕跡さえ残さないのです
朝露に浮かぶことなどこの蜘蛛の美意識としてあり得ません

ところがです

彼か彼女か知りませんが件の蜘蛛が
太目の糸をまず木塀の頭から手前の樋に架け渡し
それを基準に地面に降りまた登りして太糸で三角形を作り
その図心的位置から放射状に細めの糸を繰り出し張力を持たせ
最後にはそれらを螺旋状に結んで幾何学的にも美しい網を成し終えた頃
ふと見ると
種類のちがう細長い体形の蜘蛛が水平に張られた糸にぶら下がっているのですよ
あれれ ケンカか?と思って見ていたら この蜘蛛
やおら極細の糸をお尻から吐き出して
几帳面な蜘蛛の水平の糸を利用して自分の網を作り始めたではあーりませんか

しかもです
大体網というのはバレーとかテニスのネットのように垂直に張るものですよね 
ところがこいつの網は水平なんです
大抵の虫は水平に飛びます
もちろん垂直に飛ぶこともありますが
どちらかというと水平の方が多い
だから網は垂直に張った方が効率は良いはず
にも関わらずこの蜘蛛は水平に網を張っているのです

まあ気持ちは分かります
いくら横着だといっても
垂直の網に垂直の網だと横槍というか
ちょっと剣がありますからね

とにかく几帳面な蜘蛛は終始たまったものではありません
いつもながらの見事な網を張り終えてセンターのポジションを取ろうとしたら
妙な生き物の反応があるわけですから
早速匠の網に獲物が掛ったかと思ってテンションをかけるも
手応えがない
そらそうですわ
蜘蛛同士だから相手の考えていることは大体分かるから
サッと反応を消しますわな

あれ?引っ掛ったように思ったんだけどなあ?
と見るからに怪訝そうな態度で元のポジションに戻る几帳面な蜘蛛
一方、横着な蜘蛛は「えへへ」という感じで
どんどん好き勝手に水平に網を張ってゆく
これがまた極細の糸で構成されているから風に揺れること甚だしい
40cmはあろうかという程上下に振幅します
もうふわふわのネット
その間 几帳面な蜘蛛はもう全く落ち着かない
反応があるような ないような ないような あるような

ぼくは決して暇ではないのですが
両者の丁丁発止の遣り取りが非常に面白く
つい見とれてしまったのです
しかし最早激しい戦闘もなさそうなので
観察日記はこの辺で止めようと思ったらなんと
もう一匹の横着な蜘蛛が
横着な蜘蛛の張った水平の糸にぶら下がっているではないですか

オスかとも思ったのですが横着者同士同じ大きさの個体だったので多分同性でしょう
で 流石にこれには無理がありました
糸の反応良すぎて二匹目の横着な蜘蛛は一匹目の横着な蜘蛛に対して
身動きとれません
ビビって5分に1mmみたいな感じで殆ど完全に凍ってました

翌朝
あの蜘蛛の巣の蜘蛛の巣の蜘蛛の巣はどうなっているのかな?
と思って興味津々覗いてみると
全部纏めて綺麗に撤収してありました
何と几帳面な蜘蛛の仕事でしょう

アルチザン!

posted susumu
11:56 PM | comment(3)