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◆横着な蜘蛛

裏庭に出る手前に木塀で囲った三坪ほどの小さな庭があって
そこには前世は建築家だったかもしれない几帳面な蜘蛛がいて
夕方にもなると誠に寸法よろしく見事な網を完成させるのですが
この日はどうも勝手がちがう様子

この種類の蜘蛛は職人気質で
糸の張り方 寸法の取り方 手順の総てが機織職人のようで見ていて美しい
しかも 翌日にはその美しい網を撤収して痕跡さえ残さないのです
朝露に浮かぶことなどこの蜘蛛の美意識としてあり得ません

ところがです

彼か彼女か知りませんが件の蜘蛛が
太目の糸をまず木塀の頭から手前の樋に架け渡し
それを基準に地面に降りまた登りして太糸で三角形を作り
その図心的位置から放射状に細めの糸を繰り出し張力を持たせ
最後にはそれらを螺旋状に結んで幾何学的にも美しい網を成し終えた頃
ふと見ると
種類のちがう細長い体形の蜘蛛が水平に張られた糸にぶら下がっているのですよ
あれれ ケンカか?と思って見ていたら この蜘蛛
やおら極細の糸をお尻から吐き出して
几帳面な蜘蛛の水平の糸を利用して自分の網を作り始めたではあーりませんか

しかもです
大体網というのはバレーとかテニスのネットのように垂直に張るものですよね 
ところがこいつの網は水平なんです
大抵の虫は水平に飛びます
もちろん垂直に飛ぶこともありますが
どちらかというと水平の方が多い
だから網は垂直に張った方が効率は良いはず
にも関わらずこの蜘蛛は水平に網を張っているのです

まあ気持ちは分かります
いくら横着だといっても
垂直の網に垂直の網だと横槍というか
ちょっと剣がありますからね

とにかく几帳面な蜘蛛は終始たまったものではありません
いつもながらの見事な網を張り終えてセンターのポジションを取ろうとしたら
妙な生き物の反応があるわけですから
早速匠の網に獲物が掛ったかと思ってテンションをかけるも
手応えがない
そらそうですわ
蜘蛛同士だから相手の考えていることは大体分かるから
サッと反応を消しますわな

あれ?引っ掛ったように思ったんだけどなあ?
と見るからに怪訝そうな態度で元のポジションに戻る几帳面な蜘蛛
一方、横着な蜘蛛は「えへへ」という感じで
どんどん好き勝手に水平に網を張ってゆく
これがまた極細の糸で構成されているから風に揺れること甚だしい
40cmはあろうかという程上下に振幅します
もうふわふわのネット
その間 几帳面な蜘蛛はもう全く落ち着かない
反応があるような ないような ないような あるような

ぼくは決して暇ではないのですが
両者の丁丁発止の遣り取りが非常に面白く
つい見とれてしまったのです
しかし最早激しい戦闘もなさそうなので
観察日記はこの辺で止めようと思ったらなんと
もう一匹の横着な蜘蛛が
横着な蜘蛛の張った水平の糸にぶら下がっているではないですか

オスかとも思ったのですが横着者同士同じ大きさの個体だったので多分同性でしょう
で 流石にこれには無理がありました
糸の反応良すぎて二匹目の横着な蜘蛛は一匹目の横着な蜘蛛に対して
身動きとれません
ビビって5分に1mmみたいな感じで殆ど完全に凍ってました

翌朝
あの蜘蛛の巣の蜘蛛の巣の蜘蛛の巣はどうなっているのかな?
と思って興味津々覗いてみると
全部纏めて綺麗に撤収してありました
何と几帳面な蜘蛛の仕事でしょう

アルチザン!

posted:susumu200812

コメント

面白いですねぇ

人間で言うならさしずめ几帳面の蜘蛛はA型で
横着な蜘蛛はO型っぽいな、なんて
笑いを噛殺しながら読みました。

ところで、翌朝までに
せっかく作った巣を撤収してしまうのは
蜘蛛の習性なんでしょうか?
それぞれの個体の性格かな?
ベランダの隅っこに張られていた巣は
いつの間にか蜘蛛がいなくなって放置されてた気がします。

やっぱり性格かな?
種類にもよるかもですね。

posted: pukupuku
August 24, 2012 04:56 PM

網(巣)の張り方と撤収の有無は蜘蛛の種類によって異なります。
横着な蜘蛛の種は当然撤収などする気もありませんので
几帳面な蜘蛛が多分総て片付けたのだと思います。
涙ぐましいというか何というか。

幼時のトラウマもあって蜘蛛は大嫌いなのですが
そのユニークで多様な形態と生態には驚かされます。
それはつまり生物として成功しているということですが
その分新種の蜘蛛を発見する確率も高いわけで
小さい頃名を残す手段として蜘蛛の新種探しを考えていたことを思い出します。

posted: susumu
August 26, 2012 02:37 PM

う~ん なるほど
やはり種類によるのですか!知らなかった!
三軒分(?)の撤収をしたのだとしたら
かなり几帳面な種類ですね。

ICARUSさんの幼少時のトラウマって
どんなことがあったのでしょう?

私も小さいころ、友達の家に遊びに行くのに
雑木林の中の細い道を通って行くのですが
左右の木に渡してその道の上に蜘蛛の巣が張ってあり
黒と黄色のシマシマの大きな蜘蛛がいつもいるのです。
小さい時はその蜘蛛が巨大に見えて、怖くてその下を
どうしても通れなくて、蜘蛛がいる時は引き返していました。
(いない時もありました)
今思うと、あの巣は非常にいいポジショニングだったわけですよね。
蜘蛛に負けた根性なしの私です。

posted: pukupuku
August 27, 2012 01:38 PM




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