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12 03 06

どついたるねん

どついたるねん デラックス版




この映画は避けて通れない。
技や芸に神が宿る奇跡の瞬間がある。
『どついたるねん』は、そんな奇跡を起こした映画のひとつだ。

この映画は阪本順治の脚本による初監督作品で
主人公安達英志に扮する赤井英和は
実際に本人が歩んだ、鮮烈で短いボクシング人生を
そのままに炎のように演じきる。
それは演技を超えた演技で、観る者の魂を掴んで離さない。
こちらまでどつかれている感じで圧倒される。

本人がモデルになっている人物を演じるのは簡単なことではない。
むしろ変な作為が入ってぎこちないのが普通なのに
この赤井英和という人は天性の役者なのだろう
そんなことなど苦もなく乗り越えてしまう。
これが俳優としての殆どデビュー作なのだから凄すぎる。
勿論台詞廻しや演技に拙いところがあるけど
そんなことはてんでへっちゃらどこ吹く風で
どんどん突き進む。そのハイテンションなリズムがまた格好いい。

当時、リング上での事故により
大好きなボクシングを諦めなければならなくなって
これからどうするか悩んでいたときに舞い込んできたこの映画の話に
ふつうなら怖気づくところを、ここがチャンスとばかりに
彼は全身全霊を込めてぶつかって行くことを決め、絶賛を勝ち取る。
事実、彼はほんとうに自分の人生をこの映画に賭けていたらしい。

そんな赤井英和の滅茶苦茶なパワーに引っ張られたのか
脇を固める俳優陣の演技がまたいい。泣ける。泣けます。
気の弱い親父と浪花の母ちゃんは笑福亭松之助と正司照江で
「ちめたい」変な病院長は芦屋小雁。
左島を演じる原田芳雄と赤井の掛け合いは
不思議な間で、思わずハマってしまう。
小さなボクシングジムのオーナー役の魔赤児が喫茶店「花園」で食べる
煙モアモアのトーストが何とも妖しい。関西には今もあんなオッチャンがいる。
そして相楽晴子が勝気でかいらしい(「かわいい」ではない)。

細かいところまでしっかり作ってあるので
しゃべりたいことは一杯あるけど今は止めておこう。
観たことないひとは、いっぺん観て。
観たことあるひとは、ひさしぶりに観てください。
16年ぶりにDVDで観た『どついたるねん』は
そんなはずもないのに何故かちょっと色褪せてみえたけど
フィルムの中の主人公たちはあのときのままで
ぼくは、前にも増してボコボコにされた気がする。

因みに、この映画の熱いおしゃべりがきっかけで
『シネマな夜』 は生まれたのだった。

posted susumu
04:33 AM | comment(6)