cafe ICARUS

presented by susumulab

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25 02 06

「谷町界隈」その後

以前「谷町界隈」で旨いビフカツを出すお店のことを書いたけど
その後日談をひとつ。

「欧風料理○○」のお店のあった場所に暫く変化はなかった。
恐らくその土地だけでは小さく不動産価値は少ないので
隣地に吸収して大きな区画にする手続きが行われていたのだろう。
ぼくはその横を通る度に、あのビフカツの味と
店主と奥さんの絶妙の空気を思い出し懐かしんだ。

時間が経って、谷町の路上で一度だけあの奥さんと出会うことがあった。
そのときはお店も何もされている様子はなく
ぼくは、また近くであの味を是非再開してほしいと頼んだけど
そんな計画はなさそうだった。
<p>だいぶ時間がたって、ようやくその土地が動き出した。
建物が潰され、予想通り隣地と合わさり広めの更地になっていた。
やがてオフィスビルの建設が始まった。
それと共にあの店のこともぼくの頭の中から消えていった。

ある日、京都の下鴨で完成させたリフォーム住宅の写真撮影を
カメラマンO氏に依頼して同行した。
いつもは向こうもプロだから任せてしまうのだけれど
そのときはアシスタントも助っ人も都合が悪く
ぼくが代わりに行くことにしたのだ。
<p>京都に向かう電車の中で
ぼくたちは自分の家のことや仕事のこと
バブル崩壊後の「失われた10年」のことなどあれこれ話をしていた。
そんなとき、藪から棒にO氏がぼくに尋ねた。
「私のスタジオが入っているビルが一度売りに出たことがあるんですが
いくらだったと思います?」
「さあ、10階建てぐらいありますよね。それに新しいし、、、
ちょっと分かりませんが8億ぐらいですか?」
「いいえ、1億2千万だったんですよ」
「えっ!それは安い。ちょっとない金額ですよね」
「安いでしょ、一瞬買おうかと思ったくらいですよ」
「それを買った人が○○さんという人で」と話は続いたが
その名前には聞き覚えがあった。
「欧風料理○○」の彼だったのだ。

O氏によれば、その人は土地を手放すことで得たお金を他で使わず
地価や建物の価格が十分に安くなるのを待って、いい建物を買っていった。
そして、今は数件のビルオーナーになって芦屋に住んでいるとのこと。

いやぁ参りました。
あのビフカツにかかる絶妙のデミグラスソースを
彷彿させる見事なキレ味だ。
才能は料理だけじゃなかったんだなあ。
しかし残念。
あのビフカツはもう食べられないだろう。
おそらく彼は
気が向いたときに厨房に立って
不機嫌そうに口をへの字に曲げて
ビフカツを作るのだろう
恋女房のために

posted susumu
12:41 AM | comment(0)

20 02 06

中西 信洋展―Saturation―

 期 間:2006年2月15日~27日まで(日曜休館)
 時 間:10:00~18:00
 場 所:大阪府立現代美術センターにて
 
 不思議な透明感を感じさせる作品だ。
 映像というのは、平面の集積を時間差の消失と出現の間に
 生ずる変化の連続によって脳内に構築させるのだが
 彼はそれを逆に分解―レイヤー化―して見せるのである。
 

レイヤー化された―平面化された―映像は
つまり、時間を失った平面の集積に過ぎない。
がしかし、観察者の移動によって―そう、時間はこちら側にあるのだ―それは再び映像化する。
しかも、全く違う深度と存在感を持って。
パンフレットにあるような、この集積平面に挟まれた中を歩いてみたかった。

posted susumu
07:05 PM | comment(1)

06 02 06

迷宮の遺跡 クノッソス宮殿

sketch-004w.jpg
今想うと夢のような時間だった。

小さい頃に読んだギリシャ神話に出てくる「迷宮」の話は
ミノタウロスの存在と共にとても印象的だったし
図鑑に載っている宮殿の透視図も、わくわくしながら眺めた記憶がある。
その憧れの場所にぼくはいた。
地中海に降り注ぐ白い太陽の光と真っ青な空の下
訪問者は殆どぼくひとりだったみたいで
話し声も聞こえずなんだか本当に迷いそうな気がした。
時間を忘れて彷徨ったあと
オリーブ畑の小山に登って描いたのがこの一枚。
何故か色を付けたくなくてそのままにした。
スケッチを描いている間に目の前の山道を
ロバの牽く荷車に乗った老人がゆったりと通り過ぎていった。

ICARUS の原風景なんだなあ。

posted susumu
02:25 AM | comment(1)

04 02 06

NIGHT WATCH

要チェック!!
ちょっと凄い映画がロシアからやって来るぞ。
それが Night Watchだ!
いずれ感想はCINEMALOGに書くつもりだけど、予告編を見る限り
「攻殻機動隊」「AVALON」に繋がる鋭い映像感覚がある。
日本での公開は4月らしいけど、待ち遠しい。

posted susumu
12:50 AM | comment(0)

01 02 06

『アースダイバー』 中沢新一

司馬遼太郎の小説はどれもこれも面白いけど
 それ以上に彼のつけるタイトルが上手い。
 『坂の上の雲』『竜馬がゆく』『翔ぶが如く』『功名が辻』など
 読む前からわくわくしてくる。
 中沢新一という人もまたタイトル命名名人のひとりだと思う。
 『森のバロック』『哲学の東北』など、心の何処かがそよぐ。
 この本のタイトルもいい。
 「地面に潜る」っていう感じがすごく刺激的だ。             

このような本が出版されていることは
『ほぼ日刊イトイ新聞』の記事を読むまで全く知らなかった。
で、その日のうちに書店に走った。
「潜る」といっても実際に地面を掘ったり潜ったりするんじゃなく
現代の地図に縄文海進期の時代の地形と遺跡をラップさせて
東京を徘徊するお話だ。
そうすると、今まで見えてこなかった地霊ともいうべき強い過去との繋がりが
浮かび上がってくるのだ。
それが、まるで少年時代の宝探しのように心ときめかせてくれる。

この本のキーワードは、地層と地勢と地図だろう。
各時代の層が積み重なって出来上がるのが地層だけど
各層が絶縁している訳ではない。
いや寧ろ深い繋がりのなかで綿々と地表に語りかけてくるのだ。
また、地勢はその形や姿によって
何か人知を超えたものの存在を時代を超えて人々に暗示する。
そして地図は、設計図にも似て、魔法の杖だ。
地上1.5mの高さにある人間の視点は
地球の表面との対比で考えると同一の平面だけど
幾何学的手法で平面を離れた高みに視座を得て
人間は世界を見下ろすことができ
そこから地勢を呼び起こす力の流れを読み取ることができる。

こうして過去がリアルな存在として眼前に現れる。
しかし、この感覚は発見というよりは同意・共感という感じがつよい。
お寺や神社はずっと前から聖域であることが多いし
伝説や謂れは地勢と深い関わりを持ってやはり過去と直結している。

奈良県の東北部は山深く縄文時代の遺跡も点在し
母方の村やその親戚の村は非常に特徴的で
平地のない入り組んだ山の斜面に不合理な形で点在しており
弥生時代以前の縄文時代からこの集落が存在したことを想像させる。
全く忽然と何の脈絡もなく村や町が形成されるわけではない。
そこには必ず何かがある。

思えば、放浪しているときはこのような夢想と対話の連続だった。
イタリアの山岳都市に故郷の風景と同じ空気を見て
トルコのアナトリア高原ではヒッタイトにまで遡れる地層を足下に感じた。
偶然の出来事からアメリカ先住民族(インディアン)と出会ったとき
彼らは不思議そうにぼくの顔を見て一瞬後には
12,000年の時を隔てて再会した古モンゴロイドの兄弟であることを実感した。

それにしても、この本の凄いところは
そんな過去との邂逅を日本の首都東京に見たことだ。
その見事にリンクする過去と現在の姿は畏れさえ感じさせる。
東京に行くときはこの本に綴じ込まれた縄文地図を携えたい誘惑にかられる。

週刊誌に連載されていたこともあるのか
最後の方でダイビングの力が弱くなった印象があり
これが書き下ろしだったらどんなだったろう、と少し残念。

もう少し細かいピッチで時代遡行する大阪版の地図を作って
中沢新一よろしくアースダイビングしてみるのもいいかも。

posted susumu
01:58 AM | comment(0)