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19 12 09

『隠し砦の三悪人』

隠し砦の三悪人<普及版> [DVD]


とぼとぼと野原を歩くのっぽとちびの二人組。
突然画面下から大きく苦痛に歪む落武者の顔が現われ
そのあとに騎馬隊がわらわらと追ってくる。
オイオイ、このシーン、どっかで観たことないかい。
一難去ってまた一難、ハラハラドキドキにして痛快無比、
スターウォーズの原点たる冒険活劇の始まり始まり。

この強欲で小心者の仲が良いような悪いような太平と又七の二人組みが、
見事な縦糸となって物語が進行してゆく。

野原で喧嘩別れするも、
囚われの身となって落城した秋月の埋蔵金掘りに駆り出され
苦役のなかで再会する。
あまりの重労働に耐え兼ねて暴動が起こり、
そのドサクサに紛れて運良く城を抜け出す。
戦場で立身しようとしたけど夢かなわず「仲良く」故郷に帰ろうとする二人。
盗んだ米を炊いて空腹を満たそうとしたそのとき
ひょんなことから薪に隠された秋月の刻印のある金の延べ板を発見したから
さあ大変。
萎みかけた「一攫千金」の夢に再び火が点いて大騒ぎをする二人の前に
忽然と現われる不敵な面構えの男。

話は徐々に大きくなって大河の如く
単なる埋蔵金の話から一国の姫の決死の脱出行へと発展してゆく。

次から次へと場面は新たな展開を見せてゆくのだけれど
流石は黒澤 明。
映像のひとつひとつが実にカッコ良く美しい。

城の大手門の石段で繰り広げられる暴動のシーンなど
『蒲田行進曲』の階段落ちなんて目じゃなく
誰か死んでるんじゃないかと思うほど
雪崩落ちる群集の動きが激しい。

黒澤映画では、いつも馬のシーンは
パーフェクトに美しいけど
(その辺、一応北海道でカウボーイやっていたので分かります)
馬上の戦いも鍛えぬかれた生身の勝負になっている。

今の時代のペースで考えると
少し緩慢に感じるところがあるかも知れないけど
寧ろ、練りの浅い表層的な現代だからこそ
そこは真剣に大切にしないといけないところではないかと思う。

物語はテンポ良くくどくどとした説明はないけど
宿や火祭、決闘のシーンなどでも描かれるのは、
そこにいる人間のリアルな時間だ。
それがきちんと下敷きになって次の展開や人間関係の深みに繋がってゆく。
筋書きや映像だけでは伝わらないものがあるのだ。

ジョージ・ルーカスは、スターウォーズを撮るとき
この映画をヒントにしたところが多い、と語っているが
全くそのとおりだと思う。
騎馬武者が旗竿を背に、丘の向こうから登場するシーンや
画面の手前からバッと現われるシーンなど
騎馬武者を宇宙船に置き換えたらそのまま使えそうな気さえする。
というか、そうしたんだろう。

佐藤明の音楽も見事だ。
笛や太鼓の音を多用して独特の雰囲気が生まれている。
ジョン・ウィリアムスもまた、スター・ウォーズの楽曲を考えるに当たって
この映画を観てインスパイヤーされたのではないか、
とさえ思ってしまうほど良く似たサウンド・テイストがある。

それ程に人々を魅了し興奮させる映画だということです。

黒澤明は、ジョン・フォード監督の映画に魅せられて、
『駅馬車』に負けない映画を撮ろうとメガホンを取ったのだし
その彼が創り出す映画を観て、ルーカスやスピルバーグが影響を受ける。
この繋がりは実に刺激的だ。

是非ご覧あれ。

posted susumu
09:47 PM | comment(7)