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◆『隠し砦の三悪人』

隠し砦の三悪人<普及版> [DVD]


とぼとぼと野原を歩くのっぽとちびの二人組。
突然画面下から大きく苦痛に歪む落武者の顔が現われ
そのあとに騎馬隊がわらわらと追ってくる。
オイオイ、このシーン、どっかで観たことないかい。
一難去ってまた一難、ハラハラドキドキにして痛快無比、
スターウォーズの原点たる冒険活劇の始まり始まり。

この強欲で小心者の仲が良いような悪いような太平と又七の二人組みが、
見事な縦糸となって物語が進行してゆく。

野原で喧嘩別れするも、
囚われの身となって落城した秋月の埋蔵金掘りに駆り出され
苦役のなかで再会する。
あまりの重労働に耐え兼ねて暴動が起こり、
そのドサクサに紛れて運良く城を抜け出す。
戦場で立身しようとしたけど夢かなわず「仲良く」故郷に帰ろうとする二人。
盗んだ米を炊いて空腹を満たそうとしたそのとき
ひょんなことから薪に隠された秋月の刻印のある金の延べ板を発見したから
さあ大変。
萎みかけた「一攫千金」の夢に再び火が点いて大騒ぎをする二人の前に
忽然と現われる不敵な面構えの男。

話は徐々に大きくなって大河の如く
単なる埋蔵金の話から一国の姫の決死の脱出行へと発展してゆく。

次から次へと場面は新たな展開を見せてゆくのだけれど
流石は黒澤 明。
映像のひとつひとつが実にカッコ良く美しい。

城の大手門の石段で繰り広げられる暴動のシーンなど
『蒲田行進曲』の階段落ちなんて目じゃなく
誰か死んでるんじゃないかと思うほど
雪崩落ちる群集の動きが激しい。

黒澤映画では、いつも馬のシーンは
パーフェクトに美しいけど
(その辺、一応北海道でカウボーイやっていたので分かります)
馬上の戦いも鍛えぬかれた生身の勝負になっている。

今の時代のペースで考えると
少し緩慢に感じるところがあるかも知れないけど
寧ろ、練りの浅い表層的な現代だからこそ
そこは真剣に大切にしないといけないところではないかと思う。

物語はテンポ良くくどくどとした説明はないけど
宿や火祭、決闘のシーンなどでも描かれるのは、
そこにいる人間のリアルな時間だ。
それがきちんと下敷きになって次の展開や人間関係の深みに繋がってゆく。
筋書きや映像だけでは伝わらないものがあるのだ。

ジョージ・ルーカスは、スターウォーズを撮るとき
この映画をヒントにしたところが多い、と語っているが
全くそのとおりだと思う。
騎馬武者が旗竿を背に、丘の向こうから登場するシーンや
画面の手前からバッと現われるシーンなど
騎馬武者を宇宙船に置き換えたらそのまま使えそうな気さえする。
というか、そうしたんだろう。

佐藤明の音楽も見事だ。
笛や太鼓の音を多用して独特の雰囲気が生まれている。
ジョン・ウィリアムスもまた、スター・ウォーズの楽曲を考えるに当たって
この映画を観てインスパイヤーされたのではないか、
とさえ思ってしまうほど良く似たサウンド・テイストがある。

それ程に人々を魅了し興奮させる映画だということです。

黒澤明は、ジョン・フォード監督の映画に魅せられて、
『駅馬車』に負けない映画を撮ろうとメガホンを取ったのだし
その彼が創り出す映画を観て、ルーカスやスピルバーグが影響を受ける。
この繋がりは実に刺激的だ。

是非ご覧あれ。

posted:susumu191209

コメント

小生ずいぶん前に、NHKBSで「黒澤明特集」から「生きる」と「赤ひげ」を視聴しました。


●「生きる」は是非 国家公務員試験に「映画・生きるを見て感想文」の提出を義務付けて欲しい感有。

●「赤ひげ」も医師国家試験問題に「映画・赤ひげ」を見ての感想文提出を義務付けてはどうか?

●君はすでにみただろうか?米国映画「素晴らしき哉人生」は 
米国大学の映画学科の教科書になるだけあって、映画は何故存在するのか?との問いに対し明快な答えを出していた。

posted: 今西 伊久雄
December 20, 2009 01:56 PM

「素晴らしき哉 人生」観ました。
スピルバーグが映画の原点として掲げている一本ですね。
他は「アラビアのロレンス」「捜索者」「七人の侍」とのこと。
この「隠し砦の三悪人」も単なる娯楽映画ではありません。
ちゃんと人間を描いているところが素晴らしいのです。
余談ですが、最近の医者はデータばかり見て
目の前の患者が見えてない人が多いように思います。

posted: susumu
December 20, 2009 05:32 PM

中国の唐時代の書『備急千金要方』には、「小医は病を癒し、中医は人を癒し、大医は国を癒す」とあります。
この言葉は徳州会の徳田虎雄氏が座右の銘としているとこから知りました。
正に目の前の患者を見ないでデーターばかりを過信する医者は「小医」といったところでしょうか?

posted: 今西 伊久雄
December 20, 2009 07:05 PM

まさにそのとおりです。
この言葉、知ってはいましたが
出典までは知りませんでした。

そこで一句。

この国に
小医ばかりで中医なく
況や大医をや

posted: susumu
December 22, 2009 03:09 AM

前にも一度書かせていただきましたが
この『隠し砦の三悪人』は本当に面白い。
少し前にリメイク版をTVで観ましたが、これはもう別物。
でもそれでもう一度、黒澤監督のが見たくなり
偶然にも先週借りてきていたのでした。

ここにICARUSさんが書かれている所を特に注意して観ていましたが
暴動のシーン、ホントに凄い!
一見、緩慢に感じるところでも、そのひとつひとつは
後に繋がる大事な場面で、何ひとつ余分なものはありません。

そして今回、
何だか馬ばかりに注意が行ってしまいました。
本当に馬たちが美しかった。
昔、馬場で少しの間、毎日馬を見る機会があったのですが
まだ赤ちゃんだった次男を抱いていると
馬が優しい目で次男をじっと見ていたことが強く印象的に残っています。


北海道でカウボーイ??!!

このサイトを見つけ、『 風のファルーカ 』を読んだ時
かなり驚きましたけど、(号泣してしまった・・・)
またまた驚かされました。

マーロウな性格の元カウボーイの建築家って
何だか凄い経歴。
まだ他に何か隠してません?
きっと北海道でびっくりすること、いっぱい有ったのでしょうね。
大変だったことや危なかったこと。
聞いてみたいけど、教えていただけますか?

あ、話がそれましたが、この映画、何回観てもメチャメチャ面白いです。
以前、他の黒澤映画の流れでICARUSさんに教えて頂いたこと
ありがとうございました。

posted: pukupuku
December 22, 2009 10:17 PM

pukupukuさんは以前のコメントでも
幼稚園の送迎の待ち合わせ場所が大学の馬場だったと
書いておられましたね。
馬のかわいらしさが伝わってきます。

牧場の馬場は小山の斜面を開墾して造ったものだったので
全周1800mの半分は高くなっていて
馬に乗って走るとそこから太平洋が見えました。
いつも突然で美しく青い海でした。

posted: susumu
December 24, 2009 12:16 PM

北海道のカウボーイな逸話は
何時か『風のファルーカ』に是非書いてくださいね。
楽しみにしています。
『赤ひげ』は時間が無くて見れないまま返却してしまいました。残念!
今年も色々アドバイスしてくださって
ありがとうございました。
来年もICARUSさんの感性の発信を楽しみにしています。

posted: pukupuku
December 25, 2009 10:51 AM




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