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28 08 10

パプリカ

パプリカ [DVD]


『インセプション』を観終わった日、興奮が深夜までつづき
夢つながりで急に『パプリカ』が観たくなった。
でも遅い眠気がさしてきたので途中で止めて寝た。
お盆にシャンパン片手に訪ねてくれた友人(謎の郵便局員)に
映画を想って黄色いパプリカ入りのサラダを振舞った。
二度目の『インセプション』を観たあと、突然の訃報を知った。
今敏、46歳。


『インセプション』と『パプリカ』は同じように夢を扱った映画なので
両者を重ね合わせる人は多いだろう。
確かに他人の夢に侵入したり共有するなど似た側面もあるが、
ぼくには、其々飛び抜けた才能によって作られた全く異質の物語に見える。
『インセプション』は階層的に構築された夢の構造が何処か建築的だが
『パプリカ』のそれは、夢の世界がパラレルに繋がっているので
想像力の趣くまま変幻自在に変化してゆく。
当然描こうとする夢の世界の質も異なってくる。
『インセプション』では夢が階層的に定義されることで
心の深層にダイブする感覚が
スリリングな時間設定と映像で表現されるのに対し、
『パプリカ』の夢の世界は基本的にはひとつで、
より強い人のイマジネーションで夢の世界が犯され支配されるという恐怖を
想像力豊かな映像で描いてみせる。その展開が楽しい。

原作は筒井康隆。中学校の頃よく読んだが『パプリカ』を読んだことはない。
小説と映画は似て非なるものだから大分雰囲気が違うのだろうが、
筒井康隆独特の饒舌多情で猥雑なタッチは画面に出ているような感じはする。
『ジャズ大名』を想い出すなあ。

今敏のイマジネーションで構築され展開される夢の世界は精緻に描かれ
色彩も鮮やかでとても美しい。そして映画的だ。独特の立体感もある。
また、千葉敦子とパプリカに漂う仄かな色気の表現が巧みで素晴らしい。
更に平沢 進の音楽が爽快だ。
心の中を風が通り抜けるように気持ちいい。
何処かエキゾチックなメロディなのに、不思議と何処でもない。
夢の世界とマッチした見事なサウンドだ。


早朝、改めて哀悼の意を込めて『パプリカ』を観た。

残念というよりない。
彼のブログに書かれた最後のメッセージは心に沁みる。
ちゃんとものを創る人は
最後の最後までちゃんとしているのだなあ。


その早すぎる死を悼む。

posted susumu
12:50 PM | comment(2)

11 08 10

インセプション

メチャメチャしびれた。

今も滅茶苦茶興奮している。
やはりキューブリックの魂を継ぐのはこの人だ。

『メメント』で記憶と記録が目の前の現実に対し
如何に脆弱であるかを突き付け、
『バットマンビギンズ』で荒唐無稽なアメコミヒーローを
徹底的にリアルな人間として描いて見せ
『ダークナイト』のジョーカーをして
善と悪の境界の不確かさを厳しく問いかけた。
『バットマンビギンズ』の細部に拘るその執拗な姿勢は
何処かキューブリックを彷彿とさせ、『メメント』は
『現金に体を張れ』の刺激的な時間描写を想起させる。
そして、今、、、

『INCEPTION』を観終えてぼくは想う。
この映画は『2001:A SPACE ODYSSEY』へのオマージュとしての
『2010:A MIND ODYSSEY』ではないのかと。
奇妙な、それでいてとても深い感慨と感動を覚えた。

映画といえば今や3Dが当り前の時代なのに、
この映画は2Dでしかない。
CGは使われてはいるがその使われ方が他の映画とは違う。
CGを駆使することはない。頼ることもない。寧ろ避けている。
『2001』がそうであるように、「実在感」を撮っているから
空間としてのリアリティが、つまりは透明度が圧倒的に深い。
そのために膨大なお金を使っている。
そして、これは時の経過と共にその効果を発揮するだろう。

主人公コブは、夢泥棒というか夢盗み見屋というか、
睡眠中の人の脳に入り込んで(正確には自分たちの創った夢の世界に誘き寄せ)
大切なアイディアや情報を引き出すのが仕事だが、
あるミッションに失敗して逃げようとしたとき、
ターゲットだったサイトーから逆指名の形で、
“EXTRACTION(抜き取り)” ではなく”INCEPTION(開始=動機の植え付け)”
を依頼される。
“EXTRACTION”は「盗み見」するだけだから
ターゲットの心に傷がつくことはない。
しかし、“INCEPTION”は違う。
その情報をターゲットの心底深く潜在意識に刷り込むのだが
期待通りの結果が得られるとは限らない。いや、下手をすればその人物の人生を
とんでもない方向に変えてしまう可能性さえある危険な行為だ。
このリスキーな依頼の報酬としてサイトーが提示したものは
コブの傷ある過去の抹消だった。
そして、夢の中へのダイブが始まるのだが、、、、、

キューブリックより優れているものがクリストファー・ノーランにはある。
それは、彼の撮る映画は映画本来のエンターテイメント性を失わないということだ。
映画の芸術性だけではなく興行的にも成功できるのだ。
これは本当に凄いことだと思う。

『AI』を構想していたキューブリックは「(多分)売れない」ことを気にして
結局自分で撮ることを断念しスピルバーグにその夢を託すのだが、
―ぼくはキューブリックの『AI』が観たかった―
一時の興行で成功しなくても、作品の鮮度も質も遥かに高くそれ故に長く愛され
結果的には収益も上がり成功するのであればそれで良いではないか、
とも思うのだがキューブリックはそれが嫌だったんだね。
巨匠、なんかかわいい。

それはともかく、だからこの映画もメチャメチャ面白い訳で、
クリストファー・ノーランの描く夢の世界のアーキテクチャーが素晴らしい。
階層的に構築された夢の世界は極めてロジカルに構成されているから、
その意味ではシンプルな構造だ。
でも、その階層が総て繋がっていて段階的に下層の夢に影響を与え、
且つ時間の経過も深層に潜るに従って幾何級数的に速くなって行く中で
各階層の物語は同時に進行してゆく。
おまけに、主人公は心に問題を抱えているしターゲットはターゲットで、、、、

これらが絡まって映像になったら一体どういうことになるのか?

音楽は、おなじみのハンス・ジマー。
あのズンズン感がたまらないのだけど、今回は更にドンピシャ。
ゼラチンのプールで泳いでいるかのようなもどかしさと
怒涛のように迫ってくるタイムリミット。
その音楽も速くなったり遅くなったり、ユーモアがあったり仕掛けがあったり。

もう、映像といい音楽といい、まるで夢のようだ。
あっ、夢か?
知らないうちにこぶしを握っている自分がいる。

この感覚、是非映画館で味わってほしい。
いや、是非味わってください。


観終わったとき、ぼくは心の中で拍手喝采した。
これが、2時間半の映画だったなんてとても信じられない。

小さいとき、
ぼくは怖い夢から覚めるため実際に一度だけ「キック」したことがあるけど
みんなはやったことがあるのかな。

あれ?
グラスの水が、、、

まだ夢の中なのか?

posted susumu
10:42 PM | comment(6)