cafe ICARUS

presented by susumulab

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28 04 12

深森孤影


山の中にポツンと在る棲み家をふと描きたくなって
今は亡き父に案内を頼んだ

本当は「深々」か「森々」と書くところだろうけど
敢えて「深森」という字を当ててみた
材木業であちこちの山村を走り回っていた父が
連れて行ってくれたのがこの場所だった

のどかな陽射しの中
山の中腹でスケッチするぼくの遠い目線の下で
父は道端の切り株に座って静かにこの景色を眺めていた
その後姿はそのまま「深森孤影」だった

posted susumu
02:11 PM | comment(0)

24 04 12

草葺の家

ルクセンブルグを離れてブリュッセルに向かう
でも、先日車窓から見た草葺の家がどうしても頭を離れない
ぼくは予定とは反対にアムステルダム行きの電車に乗った

日本を出てからずっと
目にするものも泊まるもの石造りの建物が殆どで
聊か重苦しい気分がしていたところにあの草葺の家は妙に新鮮だった
勿論、ヨーロッパにも木造建築の文化はあるし草葺家屋の伝統もある
しかし、あれほど見事な草葺屋根を車窓間近に見るのは初めてだった

一軒の家にお邪魔した
快く受け入れてくれ家の中まで案内してもらった
茅なのか何なのか素材は分からなかったけど
茶黒い重厚な屋根が草葺独特の優美な曲線を描いて
真っ白な壁にどっしりと乗っかっている
壁にも十分な厚みを感じる
庭の手入れも行き届いていて美しい
大きな屋根に白い壁 家の原型みたいだ
白井晟一の初期の住宅がこんな感じだったなあ

窓、開口部は全体に小さい つまり壁の存在感が大きい
ここが日本の家と違うところ
垂直面を分解すれば、柱、壁、開口部ということになるけど
日本の古い家の、壁の占める割合いは低い
ぼくの家なども、建具を開け放てば殆ど壁のないスカスカの状態になる
これは主に豊富な木材と高温多湿の温帯気候に対する工夫である
高緯度の北欧や北海道などでは、逆に熱損失を防ぐために壁の存在が重要だ

ヨーロッパの組石文化が、鉄とコンクリートの普及によって
壁を、分厚い面ではなく線的に捉えることができるようになり
開口部に対しても自由な発想ができるようになった
壮大なゴシック建築に見られる巨大なステンドグラスも
フライングバットレスの工夫がなかったら出来なかったことだから
組石造にとっての横長の大開口は簡単に手に入るものではなく夢であった

西洋の建築文化が苦労して手に入れた空間が日本には普通に存在していた
みたいなことが19世紀から20世紀初頭にはあって
日本の建築空間が近代建築に与えた影響は大きい
深い軒の向こうに水平に広がる庭の風景は当り前ではなかった
コルビジュエのドミノ・システムに壁はないし
水平に連続する窓はモダニズムのシンボルだった

しかし、この壁の少なさは脆弱な耐震性に繋がり
現在は一定の壁量を確保する規定が建築基準法で定められている

家の中はほの暗く落ち着いた空気が流れていた
今手元にそのときの写真はないけれど
たしか屋根の上には草花が一二輪咲いていたような


もう一軒の家も訪ねて様々な思いに耽りながら
ぼくはブリュッセルに向かう電車に乗った
憧れの人に会うために

posted susumu
01:00 AM | comment(1)

18 04 12

「霊能者」という言葉の怪

マインド・コントロールだ洗脳だと世間を賑わした記事の中で
「自称」も何も付かない「霊能者」という名称が
ごく当り前に使われていることがあり強い違和感をもった
これこそマインド・コントロールではないのだろうか

「自称霊能者」と「霊能者」は、その意味が明らかに異なる
「自称霊能者」は、自分が「霊能者」だと言っている(変な)人だけど
「霊能者」は、「霊能者」としての人格的存在を暗に肯定してしまっている

これはまずい

霊、霊能というものは客観的に説明できるものはないし
定義も定かではない いろんな考えがあっていいと思う
でも、にもかかわらず「霊能者」と言い切ってしまうと
これは目には見えない不可思議な力を背景に持つ者として
その人物を無意識のうちに神秘のベールに包んで神格化してしまうことになる
人によってはそれだけで何か不思議な威圧感を抱いてしまうかもしれない
当事者はそれを狙って自分を「霊能者」と云うかもしれないけど
その意図に第三者であるメディアが加担してはいけない
多少面倒でも端折らず正しく「自称霊能者」と書くべきだろう

これは、霊の存在を信じる信じないの話ではない
例えば、霊媒師や潮来などはその役割がはっきりしている
彼らは媒介者としての存在である
また、幽霊や妖怪も人間の知らない世界を意識想像するためには欠かせない
そして、彼らはその存在の有無はともかく人間ではない
でも「霊能者」は違う これは人間なのだ
ここが恐い
注意しなければならないところだと思う

幽霊曰く、人間がいちばん恐いとか、、、

posted susumu
06:29 PM | comment(1)

14 04 12

ガタカ

ガタカ [DVD]





アルファベットのG,A,T,Cだけを残しては消えて行くテロップ
美しいメロディ 不思議な物体の落下 謎のタイトル
オープニングから引込まれてしまう

もって生まれた遺伝子の優劣が人生の優劣まで決めてしまうとしたら?
アメリカでは遺伝子確認による保険のリスクヘッジが行われているというから
究極の個人情報とも言える遺伝子情報が
その人の人生の機会を左右することは既に起こっているのかもしれない
極言すれば受精した瞬間にその人の人生は決定されてしまうことになる
とすれば、できるだけ健康で優秀な遺伝子をもつ人として生まれるように
受精前の遺伝子を操作するしかない

「ガタカ」は、それが当り前の
総てが遺伝子の優劣によって決められる時代のお話

両親が望んだ自然な受精と出産によって生まれた主人公ヴィンセントは
遺伝子の特徴として心臓も視力も弱く、長生きしないと判定されていた
そこで両親は、二番目の子として
遺伝子を操作した遺伝子的に「完璧な」子どもアントンを設ける
成長と共に兄弟には遺伝子に見合った形質が現れてくる
ヴィンセントは何かにつけて非力で、アントンは総てに優れていた

しかし、ヴィンセントはその遺伝的劣等を顧みず
宇宙飛行士になるという夢を抱く
これは遺伝子レベルの劣等者(不適正者)にとっては不可能なことだった
彼は両親や弟の忠告に耳を貸すことも無く
自分の意志と努力でこの不可能な夢の実現に立ち向かおうとするのだった

遺伝子は言わば運命のようなものだ 決して変えることはできない
そこで、優秀な遺伝子をもつ人物ジェロームになりきることで
宇宙局ガタカ(NASAみたいなもの)に潜り込もうとする
しかし、遺伝子情報はすり替えることができても
自前のパフォーマンスである知力や運動能力はすり替えられない
自分がやるしかない
その意志と努力の持続は並大抵ではない

ヴィンセントは、完全無欠の「適正者」の中にあって
その中でも特に優秀な者だけが選ばれる宇宙飛行士に見事なるのだが、、、、

華奢な体躯とおちゃらけた顔の向こうに潜む鉄の意志
ヴィンセント演じるイーサン・ホークがすばらしい
適正者ジェローム役のジュード・ロウは
まさに完全無欠の風貌だ


人生を決定するのは遺伝的要素が100%ではない
努力や意志、運などでどう変わるか分からない
だから人生は面白い
賭けてみる価値はある

因みに、ガタカのビル
フランク・ロイド・ライトが設計した実在の建物が使われているのだけど
そのシルエットが時代を超えてカッコよく
さすがは近代の巨匠 凄いというか敵わないというか
いやいや 人生何が起こるか分かりません

posted susumu
01:12 AM | comment(0)

06 04 12

アムステルダムからルクセンブルグへ

不思議な感情が心を覆う
それは旅の始まりのような昂揚感と惜別の切なさに満ちて
フェリーはアイルランド島を静かに離れた

今回は洋上で漂流することもなく
フェリーは予定通りにルアーブルの港に着いた
列車でパリまで出て北駅からアムステルダム行きの夜行に乗った
どう見てもドラッグ漬けの若者がコンパートメントに入り込んできた
困ったやつだなあ、と思っていたら
途中で警察官に連行されてどこかへ行ってしまった
ソフトドラッグ容認の国オランダならではの風景なのか先が思いやられる
何となく寝付けないまま朝を迎えて列車はアムス(テルダム)に着いた
空はどんより重い
ユース・ホステルで仮眠をとってから
隣のベッドにいたカナダの青年デイブと一緒に街に繰り出す
彼の左の眼球はいつも微妙に揺れているが持病らしい
ダム広場やアンネ・フランクの居た建物など運河の界隈を散策した

アムステルダムの景観はパリやロンドンとは全然違っていた
ワインカラーの煉瓦の外壁と切り妻屋根のギザギザのスカイラインが
街に独特のアクセントと陰翳を与えていた
建物も直立してはいない 微妙に膨らんだり転んだりしている感じが面白い
フェルメールの「デルフト眺望」そのものの風景だ
320px-AmstelAmsterdamNederland.jpg
オランダは不思議な国だ
低地地方(ネーデルランド)を自らの手で干拓し
土地を国土を造ったのだからその独立心と商才は強い
17世紀の黄金時代、金、チューリップ、ダイヤモンド
フェルメール、レンブラント、ゴッホなどなど
日本とも馴染みの深い古くて新しい国
土地まで独力で造っただけあって考え方も我が道を行く
安楽死を認めドラッグなども他国とは異なった方向で許し飾り窓も昂然とある
デザインにも独特の急進的なスタンスがあるように思う

レンブラントの『夜警』に会い、ゴッホの『ひまわり』や浮世絵の模写を眺め
日々を過ごした
それから暫くしてぼくはルクセンブルグに向かった

途中、車窓から茅葺のような屋根の住宅が一瞬見えた
とても懐かしいそのテクスチャーに驚く間もなく通り過ぎ
列車はヨーロッパの中でも極々小さな国の首都に着いた
特に何かを期待していなかったのだけど降りてびっくり玉手箱
その変化と起伏に富んだ景観はモン・サン・ミシェルにも通じる美しさで
ぼくはもうすっかり魅了されてしまった
LuxembourgCityView.jpg
ユースホステルは深い谷の下の方にあった
ずんずん降りて行く
下の方には田園が広がっている
谷の向こう側にも町が広がっている
中腹のあちこちには小さな公園がある
なんだこりゃあ 町全体がまるで遊園地みたいじゃないか
しかし谷のこちら側から向こう側に直接渡る橋が少ないのはちょっと不便だね
でも、その不便さがこの美しい景観をつくっているのだから文句は言えないか

ユースに泊まって次の日から早速探検
登ったり降りたりどこを見ても飽きない
風景の変化、視角の変化がとても楽しい
谷の稜線の中に長いトンネルを掘って戦争時に使っていたのには驚いた
外から見ていても全く分からなかったぞ
とにかく面白い

どうやらぼくはこの町といいモン・サン・ミシェルといい
一見不合理にみえるところに人間が構築した造形が妙に好きらしい
理由は分かっている
それがぼくの原風景だからだ
母の実家が奈良県東北部の寒村にあり
扇形に広がる斜面に村は展開していて各家の建ち方が既に個性的だった
斜面だから当然坂道を延々登らないと辿り着けない家ばかり
隣家を通り抜けないと行けない家もあれば
空中に浮かぶように谷に張り出した部屋もある
庭の端は手摺もなく普通に崖っぷち
母の家は三層に連なる住居群だった
ぼくはこの家に行くのが子ども心にいつも楽しみだった
もう世界が全然違ったから
今想うと縄文の匂いがプンプンしていた

これからもこんな風景を追いかけるのだろうか
ふとそんなことを考えながら
夕暮れの峠の我が家ならぬ谷底のユースに向かった

posted susumu
03:04 PM | comment(0)