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◆アムステルダムからルクセンブルグへ

不思議な感情が心を覆う
それは旅の始まりのような昂揚感と惜別の切なさに満ちて
フェリーはアイルランド島を静かに離れた

今回は洋上で漂流することもなく
フェリーは予定通りにルアーブルの港に着いた
列車でパリまで出て北駅からアムステルダム行きの夜行に乗った
どう見てもドラッグ漬けの若者がコンパートメントに入り込んできた
困ったやつだなあ、と思っていたら
途中で警察官に連行されてどこかへ行ってしまった
ソフトドラッグ容認の国オランダならではの風景なのか先が思いやられる
何となく寝付けないまま朝を迎えて列車はアムス(テルダム)に着いた
空はどんより重い
ユース・ホステルで仮眠をとってから
隣のベッドにいたカナダの青年デイブと一緒に街に繰り出す
彼の左の眼球はいつも微妙に揺れているが持病らしい
ダム広場やアンネ・フランクの居た建物など運河の界隈を散策した

アムステルダムの景観はパリやロンドンとは全然違っていた
ワインカラーの煉瓦の外壁と切り妻屋根のギザギザのスカイラインが
街に独特のアクセントと陰翳を与えていた
建物も直立してはいない 微妙に膨らんだり転んだりしている感じが面白い
フェルメールの「デルフト眺望」そのものの風景だ
320px-AmstelAmsterdamNederland.jpg
オランダは不思議な国だ
低地地方(ネーデルランド)を自らの手で干拓し
土地を国土を造ったのだからその独立心と商才は強い
17世紀の黄金時代、金、チューリップ、ダイヤモンド
フェルメール、レンブラント、ゴッホなどなど
日本とも馴染みの深い古くて新しい国
土地まで独力で造っただけあって考え方も我が道を行く
安楽死を認めドラッグなども他国とは異なった方向で許し飾り窓も昂然とある
デザインにも独特の急進的なスタンスがあるように思う

レンブラントの『夜警』に会い、ゴッホの『ひまわり』や浮世絵の模写を眺め
日々を過ごした
それから暫くしてぼくはルクセンブルグに向かった

途中、車窓から茅葺のような屋根の住宅が一瞬見えた
とても懐かしいそのテクスチャーに驚く間もなく通り過ぎ
列車はヨーロッパの中でも極々小さな国の首都に着いた
特に何かを期待していなかったのだけど降りてびっくり玉手箱
その変化と起伏に富んだ景観はモン・サン・ミシェルにも通じる美しさで
ぼくはもうすっかり魅了されてしまった
LuxembourgCityView.jpg
ユースホステルは深い谷の下の方にあった
ずんずん降りて行く
下の方には田園が広がっている
谷の向こう側にも町が広がっている
中腹のあちこちには小さな公園がある
なんだこりゃあ 町全体がまるで遊園地みたいじゃないか
しかし谷のこちら側から向こう側に直接渡る橋が少ないのはちょっと不便だね
でも、その不便さがこの美しい景観をつくっているのだから文句は言えないか

ユースに泊まって次の日から早速探検
登ったり降りたりどこを見ても飽きない
風景の変化、視角の変化がとても楽しい
谷の稜線の中に長いトンネルを掘って戦争時に使っていたのには驚いた
外から見ていても全く分からなかったぞ
とにかく面白い

どうやらぼくはこの町といいモン・サン・ミシェルといい
一見不合理にみえるところに人間が構築した造形が妙に好きらしい
理由は分かっている
それがぼくの原風景だからだ
母の実家が奈良県東北部の寒村にあり
扇形に広がる斜面に村は展開していて各家の建ち方が既に個性的だった
斜面だから当然坂道を延々登らないと辿り着けない家ばかり
隣家を通り抜けないと行けない家もあれば
空中に浮かぶように谷に張り出した部屋もある
庭の端は手摺もなく普通に崖っぷち
母の家は三層に連なる住居群だった
ぼくはこの家に行くのが子ども心にいつも楽しみだった
もう世界が全然違ったから
今想うと縄文の匂いがプンプンしていた

これからもこんな風景を追いかけるのだろうか
ふとそんなことを考えながら
夕暮れの峠の我が家ならぬ谷底のユースに向かった

posted:susumu060412

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