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◆北極圏、そして南へ

ここまで来たんだ
どうせならスカンジナビア半島の北端まで行ってみよう
それからイギリスに渡ろう
ぼくはヘルシンキ駅から北に向かう列車に乗った

「この国で仕事したかったらこの国の女性と結婚するか
この国の大学に入ることだね」
今直ぐにはどうにもならないようなことを言われて
なんとも悔しい思いをしたけど、ぼくの行動は
それほどにお馬鹿な軽挙盲動にしか映らなかったのだろう
事実そうだったのかも知れない

列車はフィンランド内陸部を北上して
やがてバルト海を南に見る国境の町TORNIOに着いた
チケットはここまで、ここからスウェーデンの町HAPARANDAに渡り
100kmほど西のBODENまで移動し再び北上する
目差すはノルウェーの港町NARVIC(ナルビク)だった

列車ははじめ平坦な大草原を延々走るだけの退屈なものだったけど
KIRUNAを過ぎたあたりから上り坂になり
いよいよ半島の南北に走る山脈を越えるべく
氷河で抉られた大きな湖を右手に
急峻な山や谷にへばり付くように進んでゆく

湖とも分かれて山中を抜けてノルウェーに入り
漸く北海への出入口となる港町NARVICに着いた
ヘルシンキを出て24時間20分
疲れた

翌朝目にする街の風景は雄大で空気も澄んで清清しい
フィヨルドの町 白夜の町 ラップランド
ここは北緯66度
既に北極圏だった

ぼくはNARVICから船に乗って
北海に長く突き出たローフォーテン諸島の真中あたりの港町
SVOLVAERに向かった
この町は北に峻険な岩肌の山をいただいて美しく
今なら「LORD OF THE RINGS」に出てくる風景みたい
と形容したいところだがそれもそのはず
映画はニュージーランドで撮影されたものだけど
この風景も共に氷河による造形なのだから似ていて当然だ

ここから細長いノルウェーの中程にあるトロンハイムまで
フェリーが出ているので
それに乗ってフィヨルドを見ながら南下するつもりだったけど
このチケットが高かった
乗ってから分かったけど、結構年配の夫婦が多く
人気の高い観光ルートであったようだ

確かに値段は高かったけれどフィヨルドの景観は目を見張るものだった
中でも圧巻だったのが
どのような浸食の所為でそうなったのかは分からないけど
中腹にポッカリと大きくて真ん丸い穴が開いている山を見たときだ
それもしっかりと向こうが見える程の大きな穴だ
びっくりした
全員が左舷に集まるものだからフェリーが傾いたくらいだ

二泊三日ののんびりとした船旅を終えて
フェリーは北海から再び入り江に入り朝方トロンハイムの港に着いた
それから駅に向かい真っ直ぐにオスロを目差す
再び山並みを越えるのだけど風光明媚なこのルートには
360度視界が広がるパノラマ電車が走っていて
フェリーもそうだったけど電車もえらい人だった
それもそのはず、このときは夏のバカンス真っ只中
北欧のひとにとって夏という季節は貴重だ
むさぼるように陽光を浴びる
だから、何処に行っても人人人

オスロに着いてホテルを探したが
案の定どのホテルも満杯
仕方ないユースにするか、と思い向かったけどこれもフル
参ったなあ、今日は野宿か、と思っていたら
子供連れのドイツ人夫婦が話かけてきて
テントの予備があるから使いなさい、ということで彼らのお世話になった

翌朝、彼らと一緒に博物館を見て回った
まだ旅慣れていなかったからか
「こうして個人の車での移動は体が休まっていい」
とぼくは当時の日記に書いている

午後は彼らと別れてお目当てのムンク美術館を訪れた
「叫び」の原画を初めて目にすることができた
また、習作や初期の作品など沢山あって面白かったし
美術館自体も斜面に建つ感じで真中に段上の庭があって綺麗だった

夜、北欧最後の町BERGEN(ベルゲン)行きの電車に乗った
雨だ

翌朝も雨だった
疲れていた
瞬く間にお金がなくなってゆく心細さと
落ち着くところのない所在のなさの所為で
とにかく疲れていた

それでもベルゲンの街は綺麗だった
特にウォーターフロントは
木造の船小屋や倉庫がリフォームされ
深い濃い色合いで港の倉庫街の雰囲気を保ちつつ
中にはデザイン事務所や店舗・レストランなどが入っていて
とてもお洒落だった
後年知ったのだけどこのエリアは世界遺産になっている

いよいよベルゲンを離れてイギリスに向かう時間がきた
このとき
ぼくはとても印象深いオーストラリアの青年と知り合い
この旅の意味を見直すことになる

posted:susumu221207

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