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◆ブリューゲルとマグリットの国

中学時代、シュールレアリスムに嵌った
なかでもマグリットの表現に強烈な影響を受けた
このブログにも極たまにコメントするIWAMOTOと一緒に京都まで出かけた
日本初のマグリット展(1971)には圧倒された
絵に興味のない父が心配してぼくたち二人を引率してくれたのが
今は懐かしい思い出だ

“Roll Over Beethoven”というチャック・ベリーの曲がある
それをもじって“Roll Over Magritte”という
グラフィック界に強い影響を与えたマグリットへの賛辞である
絵は決して上手くはない ダリには遠く及ばないだろう
オーラがない 通り過ぎても直ぐには分からないだろう
でも、知らないうちに間合いを詰められてしまう感じだ

公園に散歩に行っては樹木や枯葉を
スケッチすることもなく静かに眺めたりして
アトリエみたいなものはなく
愛妻のいるダイニングで描いていた
気が向けば、パイプを咥えて近くのバーでチェスをする
その行動は思索に耽る哲学者のそれだ
知的で透明感のある詩想と諧謔の描画は独特で一度観たら忘れられない
ぼくは、『大家族』に涙し、『これはパイプではない』に痺れ
『光の帝国』に酔った

ブリューゲルについてもIWAMOTOとは良く語りあった
『雪の中の狩人』の話が多かったかな
ぼくが好きだったのはこのブログ・タイトルにもある
『イカロスの失墜』(1558)
(ブリューゲル作ではなく無名の作家による模写というのが有力らしい)
主役であるはずのイカロスが何処にもいず
僅かにイカイアー海に沈む彼の片足だけが見えていて
空にはパラパラと羽根が舞っているだけ
「夢想に耽るものは人生を棒に振る」「実直第一」
というメタファーらしいが洒落ている 原画が残っていないのがとても残念
それに、何度観ても(というか複製画でしかみたことなかった)飽きない
『バベルの塔』
虫眼鏡で観るのがとても楽しい
ブリューゲルの場合、大体うんちしてる人がどこかに描かれているのが面白い
また、当時の建築技術や建築機械を知ることができるのも興味深い
現場で働く人たちの生活もしっかり描かれていて
洗濯物なんかがはためいていたりする
まるで江戸川乱歩の『パノラマ城奇譚』の主人公よろしくその世界にのめり込んでしまう
そして、このバベルの塔の基壇部分はモン・サン・ミシェルの造形に酷似していて
ぼくにはたまらない魅力がある

ベルギーは敬愛する二人の画家の生まれた国

ブリュッセルのユースは、最高だった
ちょっとしたホテルを超えていて、料理も素晴らしかった

次の日、ぼくはワクワクしながら、まずブリューゲルを観に出かけた
原画です 原画のオン・パレードですよ もう痺れました
ボッスの作品も数点あって心は舞い上がる一方
でも 何かが足りない
ない! ない! 『バベルの塔』がないんです!
『雪の中の狩人』もない!
えっ、どういうこと?

展示室を抜けてミュージアム・ショップを覗いたらあるじゃないですか!
巨大な『バベルの塔』のポスターが
レジの女の子に「あの絵はどこにあったの?」と聞くと
「この美術館にはないんですよ」
「えっ、じゃどこにあるの?」
「ウィーン美術史美術館」
ブリューゲルの親父 待ってろ 絶対に観に行くからな

そして、マグリット
これも17年ぶりの再会を楽しみにしていたのに
スカスカでガッカリな状態
辛うじて『光の帝国』を懐かしく観られたことが幸いかな
彼の絵は、個人蔵も多く作品も世界中に出回っているから
考えてみたら当然のことかもしれない

夜は、シカゴから来た彼女とイリノイ州から来た彼と食事を楽しんだ
勿論、ベルギービールでね
憧れの二人に乾杯

posted:susumu180512

コメント

マグリット懐かしい思い出です。確か中学校の教室で森田からマグリットの画集を見せてもらって、私も強烈な印象を受けたのが昨日の事のよう思い出しました。
今手元には73年に河出書房新社から出版された「シュルレアリスムと画家骰子の7の目叢書・第一巻 ルネ・マグリット」があります。その本の瀧口修造の献辞から、マグリットの「不思議な国」より
「平穏と神秘、平穏と不穏、静安と破局、マグリットにおけるこの相反するものの密やかな同存と錯綜はどのようなアクチュアリティを帯びるのだろう。「影から本質的な光を描きだし、光から本質的な影を描きだす」という「二重の問題に取り組む大胆さ」と彼を評したアンドレ・ブルトンの言葉とも通じるものがおそらくあるにちがいないのだ。
今西記述「日常ありきたりの見なれたものが、マグリットの手にかかると突然 白昼夢を見るような不安に襲そわれ非現実性を帯び、見る者をしてその世界に引きずり込まずにはおれない。」

posted: 今西
May 19, 2012 02:25 PM

イクオちゃんの「燃えるジラフ」の模写に驚いた記憶も鮮明ですよ。
ぼくの設計には当時影響を受けたシュルレアリスムの匂いが
漂っていると思っています。
もっと突き抜けたい感じなんですが依頼がね、、、、

posted: susumu
May 22, 2012 02:44 PM




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