cafe ICARUS

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◆北のホテル

「風のファルーカ」の中では、当時の日記を頼りに20数年前の「ぼく」が
世界のあちこちを愛と感動に満ちた放浪をしているのだが、
強烈に覚えているのに日記には全然書かれていないことが時々ある。
これは、そんな話のひとつ。

北欧にいた頃だから日本を離れてまだそんなに経ってない。
その日、ぼくはある小さなホテルに泊まった。

建物はほんの少し高台にあって
その飾り気のない箱型の建物はアプローチから見て斜めに構えていた。
だから、見えるのは建物の正面と横の壁だけ、
フロントヤードには樹木が結構生えていたかなあ。

外観は粗いコンクリートの打ち放し
エントランスホールのインテリアも実にあっさりとしていて飾り気がなく
それでいて落ち着きがある、北欧家具に通ずる上品さがあった。

で、レセプションに行くと輝くばかりの金髪の女の子がキュートな笑顔で
ポツンと座っている。

ワオ!すごい美人だ。

どぎまぎしながら宿泊の手続きをしていると、彼女と良く似た女性が
「いらっしゃいませ」という感じで出てきた。

オオ!これまたすごい美人だ。

受付が終わったら、今度は別のラフな格好をした女の人が出てきて
「洗濯するならランドリーはこっちよ」と地下に案内してくれたが、
彼女も他の二人と似ている。

当然メチャメチャ美人だ。

聞けば、三姉妹だとか。ひゃあー。
こりゃ本物の三美神だよ!
いるんだね、こんな人たちが世の中に!
と妙にウキウキしながら部屋に案内してもらいました。

という話ではなくて、、、、

案内された部屋は、エントランス同様にシンプルな構成で
しかもエレガントに纏まっていた。
カーテンは模様のない単色の綺麗なイエローだった。

翌朝、下のレセプションで朝食チケットを買った。
このホテルには食堂がなく、
向かいにある建物のレストランに行かなければならないのだ。

ホテルの真ん中あたりにある出入り口から庭に出て
綺麗に手入れされた芝生の中の小路を緩やかに降りていった。
正面に見える白い建物は、これもすこし体をひねっていて色気がある。
形は立方体で、庭に向かって二面がスチールの細い枠で構成された
ガラス張りのグリッドになっている。

ホテルの構え方、食堂への導き方、建物のボリューム、
どれをとっても申し分ない、おまけに美人三姉妹だもんなあ、
などと思いながらふと後ろを振り返ってびっくり。

ホテル棟がパターン画のような色の洪水じゃないか!
それは正面のコンクリート打ち放しのモノトーンとは全く違う表情だ。

客室の開口部はこの庭に面して連続しているのだけど
そのカーテンが、赤、黄、青など各室バラバラに構成されていたのだ。
その鮮やかなこと。

このために他の部分の色をストイックなまでに抑えていたんですね。

しびれました。

食堂になっているレストランも天井高が高く、清潔感があって
とても気持ちが良かった。
終始ニタニタしながら朝食を食べているぼくは
結構痛い感じに見えただろうな。

細やかさと大胆さ、シンプルなのに複雑、地味だけど華やか。

完璧でした。

posted:susumu260108

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