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◆ロゼッタ・ストーン

この石が発見されなかったら、ぼくたちの前に
古代エジプト史がこんなにも鮮明に描かれることはなかっただろう。

小さい頃、
あの巨大なピラミッドが砂漠のど真ん中にどのようにしてできたのか、
また、どうしてあの象形文字が読めるのか不思議でならなかった。
発掘した遺跡を調べてどのように分類したところで、
推測はできても解読などできるはずがない、と思っていた。
あるとき、それはとんでもない石碑が発見されたことで
初めて可能になったことを知ってぼくは驚いた。

それがロゼッタ・ストーンと呼ばれる石碑だった。
そして、それはナショナル・ギャラリーとともに楽しみにしていた
大英帝国博物館にあった。

何故この石碑が凄いのか。
そこには同じ内容の文章が三種類の文字で書かれていたのだ。
それは古代ギリシャ文字とヒエログリフ、そしてデモティック。
そのうち古代ギリシャ文字だけは既に読めた。

ここからヒエログリフの解読という知の冒険が始まるのだが
それには、ひとりの天才の登場を待たなければならなかった。

いや、「待つ」というより
彼はヒエログリフを解読するために生まれてきたというべきか。

言語学に飛び抜けた才能を持った若き天才、シャンポリオンその人である。
小さい頃にヒエログリフを見せられた彼はその美しい絵文字に一目惚れしてしまう。
そして、その文字が誰にも解読できないことを知り謎解きを宣言するのだ。
それから、語学の猛勉強に明け暮れる。

この天才をしても、
そしてこの石があっても、
ヒエログリフの解読は困難を極めた。

文字の解読とはそれほどに難しい。

マヤの遺跡に刻まれた膨大な数の絵文字も
ロゼッタ・ストーンのような「物指し」が発見されないから、
殆ど何も解読されない。
ピサロを含むスペイン人があれほどの壊滅的な蹂躙を犯さなければ、
クレオール化の過程で解読に繋がる「物指し」ができたであろうに
今はそれが文字であることが分かるだけで、
総ては歴史の闇に消えたままだ。

シャンポリオンは、
カルトゥーシュ(楕円の囲み)の中が固有名詞ではないかと推測し
調べてみるとそこには表音文字の性格があることを発見して、
徐々にヒエログリフの謎に迫ってゆく。
その後、20年程の歳月をかけてようやく彼は
ヒエログリフの解読に成功するのだが、
その成功の喜びに浸る余裕もなく41歳の若さで病没する。

随分前にNHKの特集で放送されたが、
その謎解きと情熱的な人生が強烈に印象に残っている。

3種類の文字でびっしりと埋め尽くされた黒光りのする石碑は、
思った程には大きくなかったが、威厳に満ちたオーラを発していた。
それは紛れもない現代と過去を結ぶタイムマシンの姿だった。


ぼくは、ロンドンにいる間この場所に何度も通ったが
その日々も終わりに近づこうとしていた。

日本を離れて3ヶ月近く過ぎていただろうか
初めて、両親に電話を入れた。

母は電話の向こうで泣いるだけだった。

こんな機会はもうないかもしれない。そう感じた。

迷っていたAAスクールだけど、結局行くことは諦めた。

勉強なら自分でできる。

それより、世界を見てやろう。
この足でこの世界を一周してみよう。
この目で確かめてみよう。

何処かにぼくのロゼッタ・ストーンが転がっているかもしれない。

ぼくの心は決まった。

posted:susumu050608

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