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◆未来世紀ブラジル

未来世紀ブラジル [DVD]


カフカの『城』に迷い込んだかのように
不条理な情報局の風景。
どう見ても機能的とは言えないメカと配線。
そんな未来都市ブラジルで、
人々は厳しく管理され情報と書類の山に埋没してゆく。

初めてこの映画を観たのは昔懐かしい大毎地下劇場で
『ブレード・ランナー』との二本立てだった。
今想うと何ともマニアックな組み合せにびっくりしてしまう。
監督はテリー・ギリアム。
『モンティパイソン・フライングサーカス』のアニメを担当していた頃からの大ファンだ。
随所に見られるグロテスクでブラックなユーモアはその頃培ったものか、
ちょっと前にみた『ブラザーズ・グリム』でも全然変わらない。

彼の描く映画の世界を一言でいうと、イメージの洪水と過剰だろう。
表現したい物語や世界のイメージが、
恐らくは強力に膨らみ過ぎて暴走してしまうのだろう、
映画の製作はいつも遅れがち、
俳優とはトラブルし映画そのものが中止になることも少なくない。
全くプロデューサー泣かせの、しかし正真正銘の名監督なのだ。

この映画でも、繰り広げられる未来の世界は暴走気味。
時代も文化もインテリアもイメージもデザインも
縦横に走り回る設備の配管のようにこんがらがって饒舌にして過剰に、
過剰にして饒舌に表現され、
かろうじて脈絡を保ちながらスクリーンに押し迫ってくる。
それは、過剰に情報と規則に縛られた――まさに箍(たが)を嵌められたような――
未来の管理社会ブラジルを象徴してあまりある。
それにしても、イメージの箍がよくはずれなかったものだ。

その現実と非現実が綯い交ぜになったイメージの連鎖と飛躍は
彼が実写ではなくアニメーションから出発していることに関係するのかもしれない。
彼に落語の『頭山』を撮らせたら絶対に面白いだろうな。

物語は一見ユーモラスに見えながら、
その実背後には恐ろしく残酷な雰囲気を匂わせながら展開して行く。
スモッグに覆われた環境の下、空のない極度に密集した都市ブラジルで
繰り広げられる情報ファシズムとそれに対抗するレジスタンス。
レジスタンスといってもその活動がこれまたユニーク。
法律と書類で雁字搦めになった面倒な修理作業の依頼を盗聴して
勝手に出向いて行っては無許可で苦もなく見事に修理してしまうのだ。
速いし手際が良いしおまけに余計な書類はいらないから言うことない。
それはレジスタンスというより単に修理好きの忍者みたいなオッサンの行動なのだが、
ところがこれが当局にとっては許せない。管理されていないからだ。

裕福で人脈もある家庭に生まれながら潜在的に「自由の翼」を夢想する主人公は
その象徴ともいえる夢の中の女神を現実世界で発見するのだが
反社会的存在と誤解したことから更なる偶然と誤解を産んでレジスタンスと絡まりつつ
彼女を追いかけ自由への迷走が始まるのだが、、、、、

可笑しくも恐い映像もすばらしいが音楽もすばらしい。
特に、最後のシーンで流れる名曲「ブラジル」は美しく哀しい。

posted:susumu010609

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