cafe ICARUS

presented by susumulab

« 夜色楼台図 < mainpage > 『燃えつきた地図』安部公房 »


◆夏の使者

秋も晩秋に近づこうかというこの時期に過ぎた夏の話。
玄関先の細い路にあのオニヤンマは来なかった。

今年の夏は晴れの日が少ないことを思いつつ
いつものように庭の草毟りをはじめた。
よく見ると日照不足の所為かいつもより苔の勢いがいい。
西芳寺みたいな訳にはいかないけれどちょっと良い感じなので
今回は苔をテーマにトリミングしてみようと思い立った。
が、いざそのつもりでやってみるとこれが大変。
苔を踏むわけにもいかず窮屈な姿勢で不要な草を取り除いて行く。
これがこたえて夕方には体がバキバキになってしまった。

この日は終日庭にいたがあの「ビュッ」という音は聞こえなかった。
やはり太陽の陽を浴びて大きく翅を伸ばす機会がなかったのか
別の場所で見かけたオニヤンマの姿も何処となく小ぶりだった。

グレート・ギャツビー (新潮文庫)
翌日の昼下がりには、
天気もいいので何もせず
裏庭に椅子を出してビールを飲みながら
終盤にさしかかった
『グレート・ギャッツビー』を読んだ。
確かにチャンドラーは
この小説を強く意識していたように思う。
ガラス細工のように魅力的で脆い
ふたりの主人公が実に印象的だ。


ふと見上げた高い空にはうろこ雲があり、
吹く風もどこか秋の匂いがする。
短い夏も終わりだ。
ちょっと切ない気分で家の蔭に身を置いて
ぼけっとしていたら
突然に大きなオニヤンマの姿が。
裏庭を一直線に通り過ぎて
前の田圃に大きく旋回して消えていった。
戻ってくるのを待ってはみたが
二度と見ることはなかった。
でも、ぼくは夏の使者に会えたことが嬉しかった。

空が紅くなってきた。風も涼しい。
ぼくは椅子を片付けて家の中に入った。

posted:susumu201009

コメント




保存しますか?



copyright(c) 2005-2011 susumulab all right reserved.