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◆椿三十郎

椿三十郎<普及版>






モノクロ画面の中で紅い椿をより紅く感じさせるために
ひとつひとつ黒く塗ったことでも有名な黒澤映画の傑作。

映画には三つの大切な要素があると思う。
1. 脚本
2. 編集
3. 音楽
カメラと俳優は当然のこととして、
この三拍子揃ったものが名作と呼べるのではないだろうか。
例えば、「2001年宇宙の旅」
原作はSF界の巨匠アーサー・C・クラーク
人類史400万年を一瞬で視覚的に説明してしまう編集の凄さ。
音楽は全編クラシックの名曲揃いで新しい映像と見事にリンクする。
例えば「グラン・ブルー」
素潜りの達人ジャック・マイヨールの特異な人生を元にした脚本。
オープニングから観客を掴んで離さない編集の切れ。
エリック・サラのあまりにも透明な音楽がグラン・ブルーそのもの。
例えば、「アラビアのロレンス」
例えば、「ロード・オブ・ザ・リングス」
数え上げたら切りがない。

そしてこの映画「椿三十郎」、総て揃っている。
特に脚本は、本当に良く練られている。三人がかりで練りに練ったらしい。
森田芳光監督が新しく撮るのに、脚本は元のままを使ったらしいけど、
それは手を加える必要がなかったということだろう。

黒澤 明監督の映画の場合
後年の大作「乱」や「影武者」などは無常観が漂い何処か重いところがあるけど
この「椿三十郎」は単純に映画として面白くテンポもいい。
ただ面白いだけではなく、そこに人間の生き方がしっかりと描かれている。
これが映画の中で構築される世界を確かなものにしている。
やはりぼくは、黒澤映画の中ではこの「椿三十郎」を第一番に挙げたいなあ。

また、よく言われることだけど
シネマスコープの横長の画面を効果的に使った人物配置やカメラの動き
そのひとつひとつが実に美しくカッコいい。
たとえば、椿三十郎が大目付菊井の館を訪れて入口の大きな扉を叩き
その前で待つところ。
扉が音を立てて開き、黒光りする馬がバラバラと駆け抜けて行く。
それをカメラが下から主人公の肩越しに煽る。
ただそれだけだけど、それがダイナミックで流れるように美しい。

それと、やはり三船敏郎扮する椿三十郎の存在感。
日本人は究極の混血だから実に様々な容貌が人の顔に現われて面白いけど
あの顔は少ないのではないか。
外国を放浪していろいろな人種の顔を見てきたけどあの顔はなかった。
バタ臭い訳でもない、如何にも東洋人というのでもない。
独特の雰囲気のある、しかし紛れもないアジア人の顔立ち。
それにあの演技と何とも憎めない笑顔。
男前とかハンサムという言葉じゃちょっと納まらない。
オマー・シャリフやアンソニー・クウィンとかにも同じ雰囲気を感じる。
大正生まれの顔なのかなあ、
顔立ちだけではなく気位も含め、今はもう見かけない日本人のような気がする。

この映画は「用心棒」の続編として作られたのだけど
「用心棒」の原案は、ハードボイルド小説の傑作
ダシール・ハメットの「血の収穫」がベースになっている。
そして「用心棒」をベースにセルジオ・レオーネが撮ったのが
クリント・イーストウッド主演の「荒野の用心棒」。
後に盗作の問題が出て裁判で決着がつくのだけど、
原作がアメリカなのだから原作からの西部劇にした方が易しかっただろうに
やはり「用心棒」のインパクトが強かったのだろうか。
クリント・イーストウッドは「三船敏郎の演技を相当研究した」と
後に語っているけど、そう言われれば、
目を細めたときの小皺まで似ている感じがするではないか。

最後の中代達也扮する室戸半兵衛との決闘はあまりにも有名だけど
脚本どおり「とても筆では書けない」。
じりじりとする長い間と一瞬の結末、そして惨たらしい死
やはり息を飲む。

2007年版の「椿三十郎」を観て、「こんな面白い時代劇があるんだぁ!」
とか言う前に、まずこっちを観てほしい。
「隠し砦の三悪人」もメチャメチャ面白いのだけど、また後日。

posted:susumu160108

コメント

いや~本当におもしろかったです!
少し前に観たのですが、最近もう一度観ました。
黒澤作品は「乱」や「影武者」の印象が強くて、過去の作品は何故か
躊躇してしまい手が出せないままでしたが
今回、思いきって観てみたら、意外なおもしろさに驚きです。
黒澤作品の時代劇に思わず吹き出す様なおかしさが有るなんて!

今では名だたる名優の若き姿も新鮮でしたが
やはり三船敏郎の存在感というか風格は特別なものがありましたね。
捕らえられた家老の奥方のスローなテンポに襖を
イジイジしている椿三十郎の姿がなんともおかしくて可愛くて、笑ってしまった。

それぞれの行動の意味や理由をすべて自然な形の台詞で喋ってくれるので
(これが練りに練った脚本の凄さなのかな)
推理したり考えたりせずに、役者さんの表情や仕草、
背景をじっくり観ることができました。

三船敏郎の肩越しに門が開いて馬がパラパラと出て行く所、
カッコよかったですねー。
で、ここで何故か「デジャヴ」のような感覚。
(そういえば子供の幼稚園の送迎時の集合場所が大学の馬場でした。
今は移転してもう無いですけど2年間、毎日至近距離で馬を見ていました。
歩く姿も走る姿も本当に美しかったな。)

そして最後の対決
まばたきも出来ずに見た壮絶な場面
世界が驚嘆したというのもうなずけます。
この映画を観て自分的には何か「パンドラの箱」を開けてしまった感があり
「ICARUSさん、どうしてくれるんですか」状態になりそうです(笑)。
黒澤作品、どういう順序で観たらいいのでしょう?年代順?
ヒントをください。

posted: pukupuku
September 13, 2008 02:57 AM

順序なんてありませんがこの流れで行きますと
まずは、やはり本編といいますか前編といいますか『用心棒』でしょう。
これで両者を比較してみてください。
『椿三十郎』の面白さが良く分かると思います。
勿論、『用心棒』もメチャメチャカッコいいんですけど
根底には人間に対する深い嫌悪感のようなものがあるような気がするんですよ。
原作同様に、主人公は決して単純な「正義の味方」ではありませんから
当然といえば当然なんですがね。
『椿三十郎』の場合は続編ということもあって
肩の力が抜けているというか変な力が入ってないというか
そこが返って面白く「最強のB面」みたいになっていると思います。
というか、原作のハメットと山本周五郎の違いかなあ。
で、次はやっぱり「最強の盗作」となった『荒野の用心棒』でしょう。
今度は主人公の演技を見比べてください。
たしかにクリント・イーストウッドは三船敏郎を「相当」研究しています。
しかも、現在の映画監督としての彼が描く人間の皮肉というか善悪の間というか
そんなものの原点が既に此処にあるように思います。
そうなったら、もう誰が何といおうと(誰も何もいいませんが)
絶対に『許されざる者』を観る訳です。
ここで、鳥肌もののガンアクションとジーン・ハックマンの演技
(彼、よくこの役受けたと思います)に感動してふと空を見上げると
満点の星の向こうから、ジョン・ウィリアムスの曲とともに
『スター・ウォーズ エピソード4/新たなる希望』が
アンゴルモアの大王のように降って来ますので
これを観ることになります。
なんですと?黒澤 明はどうなった?
ご心配なく。
ダースベーダの顔は三船敏郎になるはずでした。
えっ?関係弱い?
じゃあ、
この映画のテンポが良くて面白いのは『隠し砦の三悪人』をベースにしてるから、
ってのはどうですか?
ほら、戻ってきました。
『王の帰還』、じゃなかった『椿三十郎』の面白さはここに繋がっているのです。
それに、ジョージ・ルーカスは本当に上手にこの映画をパチッてます。
ぼくなんか騎馬隊が宇宙船に見えてきましたもの。
音楽だって完全にこれにインスパイヤーされていますね。
ヒエ~! 仕事なのに書きすぎたああぁ
もう、五十郎ですよ。少し過ぎてますが...

posted: ssm
September 13, 2008 04:27 PM

「用心棒」→「荒野の用心棒」→「許されざる者」まで観たところです。
ストーリーはシチュエーションが違うだけで全く同じだった。
おっしゃるとおり、まさに「最強の盗作」でした。
驚きましたね、何も知らなかったですから。

三船敏郎が本当にカッコ良かった!(後姿がカッコよかったなあ)
カメラがグーンと引いて遠くから撮っている立ち姿がまたすごくいい。
静止画面にしてしばらく眺めていたほどです。
こちらが先ですが、「椿三十郎」とずいぶん雰囲気が違いますね。
笑いは無くても考え抜いた知能戦がメチャメチャ面白かった。

ストーリーとして「用心棒」が素晴らしかったから
西部劇で作ってみた、というのは理解できます。
でもイーストウッドが表情まで三船を「相当」研究し演技まで真似る、と
いうのはどうしてなんでしょう?
自分なりの「演技だけはオリジナル」な荒野の用心棒を作ることが
出来たはずなのに。
それだけ三船敏郎が完ぺきだった、ということなんでしょうか。

白煙(砂塵?)の中から現れるイーストウッドは三船敏郎のような
重厚な感じでは無かったけど、また違うカッコよさでした。
「ファイヤー・フォックス」の中でも白煙の中から出てくる所
ありましたね。原点は「用心棒」だったなんて・・・。

「許されざる者」のハックマン、なんてイヤなヤツ。
イヤなヤツ過ぎて・・・上手過ぎ演技に感動です。
善と悪が背中合わせで、それぞれが自己矛盾を抱えている。
その自己矛盾を突き詰めて考えるほど苦しむ。(うまく言えませんが)
うーん、重いテーマをつきつけられている・・・。
若いイーストウッドの精悍な顔もいいけど、男の人って年を重ねると
本当に味のあるいい顔になってきますね。

次の「スター・ウォーズ」・・・降ってくるかな、と考えてたら
「お母さん、これ観る?」と
次男が渡してくれた「サラマンダー」
この中でなんと、クリスチャン・ベールとジェラルド・バトラーが
子供達の前でスター・ウォーズの寸劇をやっていた。
すごいタイミング。
(スキンヘッドでマッチョなマシュー・マコノヒーにも驚きました)

posted: pukupuku
October 1, 2008 09:42 PM

『スター・ウォーズ』がそんなかたちで降ってくるとは….
ノストラダムスもびっくりですなあ

それに、いい加減な順番そのまま観るなんて無謀です
やっぱり

「一本で十分ですよ」

ところで、当時のクリント・イーストウッドと三船敏郎を比較すれば
やはり役者の技量としては格の差ぐらいの違いがあったのではないでしょうか
生物の進化もデザインも模倣から入るから役者もまたしかり
ハリー・キャラハンのときは
もう完全に彼のオリジナルに昇華されていますもんね
クリント・イーストウッドの映画は
音楽もいいんですよね うう~、泣ける。

posted: ssm
October 3, 2008 11:30 AM

あ、一日ですべてを観たわけではないです。
二週間以上かけて少しづつ・・・です。
(変な書き方をしてすみませんでした。)
仕事も家事もありますしね。でもこの順番、面白かったですよ。
間にもう一度観たくなって
「ミリオンダラー・ベイビー」と「ブロークバック・マウンテン」も
観ましたけど。
ヒース・レジャー、本当に残念です。
(大体、普段からこのぐらいのペースです)

次男から降って来たスター・ウォーズでしたが
サラマンダーの中でバットマンと怪人さんが、もうすごく
真面目にスター・ウォーズをやっているんです。
とっても可愛かった。

posted: pukupuku
October 3, 2008 04:20 PM

『隠し砦の三悪人』観ました。
パクってましたねジョージ・ルーカス。
ICARUSさんの言うとおり、本当にうまーく・・・「こんな所まで」って
とこ、結構ありました。

「裏切り御免!」って、(裏切ってほしいなと思っていたけど)
爽快でした。おっしゃるとおりテンポがよくてとても面白かったです。
強欲なR2D2とC3POもいましたね。
TVの「定番ストーリー」の時代劇とは全く違う楽しさでした。
黒澤作品、少しづつ観ていこうと思います。
(イーストウッドの作品群も、興味がわいて来ました)
しかし私、今まで何も知らずに「だだ、見てた」だけだったのですね。
「何を描こうとしているのか」なんて深く考えることも無かった。
この『シネマログ』で教えて貰って観たものは
自分のチョイスでは多分、観なかったであろう映画だし
また味わうことも無かった感動でした。
本や音楽もまたそうです。ありがとうございます。

先週末までだった『ダークナイト』
最終日にブルグに駆け込もうと仕事頑張ったんですが
珍しく次男が風邪で熱を出し、結局あきらめました。
もう大きいし、薬飲ませて寝かせておけば大丈夫かな、とも思ったけど
それで観に行ったってきっと気になって仕方ないだろうし・・・
映画館で観たかったなあ・・・残念です。
(DVD予約しよっと!)
すごいタイミングですよね、これも。

posted: pukupuku
October 16, 2008 12:16 PM

ネッネッ、面白かったでしょ!
『隠し砦の三悪人』
これはいずれCINEMALOGで取り上げたときに書きます

ところで、
すごいタイミングですよね、これも

ぼくは、仕事がポッカリ空いて
彼女も既に東京で観たとかで
そんならひとりで行くかとチェックしてみたら
その日はブルグでの公開最後の日だったので
すわっとばかりに
『ダークナイト』を観に走ったのでした

劇場に行かれていたら出会っていましたね
入りも少なかったから直ぐに分かったかも知れませんよ

先日のこと
友人と打ち合わせが終わって
一杯呑みに言ったら
玄関でしゃがんで靴紐を結んでいる
ぼくの頭頂部を見て
「薄くなったなあ」
と思ったと突然言われてガ~ン
外国にいるときでさえ
ライオンとか狼とか呼ばれた私がですよ
ガ~ンです

オレもスキンヘッドにするか

posted: ssm
October 16, 2008 05:06 PM

(ここにコメントする内容では無いかもしれませんが許してください。)
昨夜、何気なくつけたTVで 『マディソン郡の橋』 をやっていた。
10年ぶりに観る映画 微妙な時間帯だったけど、
何もかもほっぽり出して見入ってしまった。
10年、時間が経つとこんなにも受け取り方が違うのかと
自分でも驚いた。

ニコンのカメラ
4日間の二人の場面に流れるジャズの名曲
イェーツの詩
ウインカーを出したまま青信号で止まっている車
バックミラーに絡ませるフランチェスカのペンダント
ドアを何度も握り返しながらも開ける決心がつかなかったフランチェスカ

イーストウッドはなんて美しい別れのシーンを描いたのでしょう。
いい映画です。大人の為の映画でしたね。
(男性からみたらどうなのか解りませんが・・・)
本当に曲がよくて、泣けました。

posted: pukupuku
November 12, 2008 11:39 PM




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